真打ち目前で前座に逆戻り 数奇な運命を歩んだ立川吉幸が来年5月に真打ち昇進決定

念願の真打ち昇進が決まった立川吉幸
念願の真打ち昇進が決まった立川吉幸
古典をのびのびと演じる立川吉幸
古典をのびのびと演じる立川吉幸

 落語家・立川吉幸(きっこう=44)が来年(2019年)5月に真打ちに昇進することが明らかになった。所属する落語芸術協会(芸協=三遊亭小遊三・会長代行)の理事会で承認されたもので、8月末に正式発表される。吉幸は真打ち昇進目前から前座修業に逆戻りし、前座、二ツ目を2度務めるなど、過去に例がない経験をした苦労人。入門から22年でようやく“一人前”とされる真打ちに昇進する。

 吉幸は「自分の実力で勝ち取った訳ではないと思っています。みなさんの温情でなれたものだと…。ありがたいですね」と話した。芸協では3~4年の前座修業で二ツ目に昇進し、約10年で真打ちに昇進するのが基本的な“流れ”だが、吉幸は他の団体からの“移籍”で、遠回りをした形となった。

 吉幸は1997年10月に快楽亭ブラックに入門し「ブラ房」を名乗った。ブラックは立川談志さんが家元として創設した落語立川流の所属で、吉幸も立川流の落語家として活動していた。最初の転機は2005年だった。師匠・ブラックが借金問題で立川流を“除名”。残された弟子は立川流の他の師匠の弟子となった。吉幸は、立川談幸の弟子となり再出発した。「よく稽古をしていただきましたし、自分のタイプに合っていた。『師匠の芸ならば出来る感じです』と失礼な言い方をしましたが、(談幸)師匠に『ウチにくればいいじゃないか』と言っていただいて…」。07年7月には二ツ目に昇進。真打ち昇進が見えてきた14年末に再び転機が訪れた。

 師匠・談幸が立川流を退会し芸協に加入することを決めたのだ。談幸の「立川流を辞める。付いてきてもらいたいんだけど…」の言葉に「もちろん付いていきます」と返事をして、弟弟子・幸之進とともに師匠と行動した。

 定席に出ていない立川流からの“移籍”に芸協は協議。寄席での修業をしていないこともあり、吉幸に1年間、幸之進に2年間、前座として修業を課した。

 団体が違うとはいえ、真打ち昇進目前からの前座への逆戻りは、当時、業界で大きな話題を呼んだ。立川志らくは、自身のブログで「彼を前座に戻すということは、芸術協会は立川流を認めていないことになる。つまり談志を否定していることになる」と猛烈批判した(その後、ブログを削除)。

 吉幸が15年4月に芸協に加入して前座修業をしているさなか、10月に、立川流の真打ち昇進披露が行われた。14年10月からの真打ちトライアルに合格した立川志らら、立川小談志、立川左平次、立川志ら玉、立川らく朝の5人だ。吉幸も立川流に残っていれば、トライアルを受験する流れになっていた。さらに左平次、志ら玉は、ブラックに師事していた時の弟弟子で、追い抜かれた形になった。

 「抜かれるという感覚はまひしていますね。自分は自分なので、あまり人のことを考えませんね」と吉幸は淡々と答え、そして言葉をつないだ。「最初の頃は(抜かれる)悔しさはありましたよ。でもブラック師匠から、ウチの師匠(談幸)の弟子になる時の大変だったことを考えると、たいしたことじゃないなと思うんです。あのときは(落語家としての)生命の危機というか、危機感がありましたから」と平静でいられる理由を語った。

 芸協での前座修業はどうだったのか。「ウチの師匠からは『みんな、“兄さん”と呼びなさい』と言われました。ダレた二ツ目生活をしていたから肉体的にはハードでしたね。お茶くみ一つとってもやり方が違う。(立川流は)太鼓をたたく機会が格段に少なかった。システムが違うしやって良かったと思います。もう1回やれと言われれば考えてしまいますけどね」。

 16年4月に二ツ目に昇進してから3年での真打ち昇進が決まった。「最長(二ツ目10年間)も覚悟していました。逆らうこともできないものなので…」。感謝とともに意を決した。「不安はあります。大変だと思います。一生懸命やるしかないですね」。

 前座、二ツ目、移籍、前座、二ツ目…。そして真打ち昇進。その間に師匠も代わり所属団体も代わった。翻弄された落語家人生だが、吉幸はどこまでも自然体だ。「私にとっては、これが普通なんです。他の人の経験は分からないし、人のことを気にしていてもしょうがないと思っています」。芸協に移籍したから実現する寄席での披露目についてどう思っているのだろうか。「緊張しますね。(立川流では定席に)出ていなかったので…。(入門前に)好きで行っていた場所で披露目を出来ると考えるとすごく緊張します。でもすべてはこれからですね」。かつて落語ファンとして寄席通いしていた頃を思い出して、幸せをかみしめている。(コンテンツ編集部・高柳 義人)

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