「ベートーベン」と「ベートーヴェン」。どちらの表記が正しいのでしょうか

　Ｑ　「ベートーベン」と「ベートーヴェン」。どちらの表記（ひょうき）が正（ただ）しいのでしょうか。（読者（どくしゃ））

教科書（きょうかしょ）の決（き）まりなく、音楽（おんがく）用語（ようご）に両方（りょうほう）記載（きさい）

　Ａ　今年（ことし）は生誕（せいたん）２５０年（ねん）を迎（むか）え、新聞（しんぶん）や雑誌（ざっし）、テレビなどでも特集（とくしゅう）され、あらためて注目（ちゅうもく）されました。確（たし）かに二（ふた）つの表記（ひょうき）がみられます。

　毎小（まいしょう）では「ベートーベン」を使（つか）っています。これは小学生（しょうがくせい）向（む）けに、そのようにしたのではありません。１９９１年（ねん）、国（くに）の役所（やくしょ）の文化庁（ぶんかちょう）の会議（かいぎ）で「外来語（がいらいご）の表記（ひょうき）」が議論（ぎろん）され、「ヴァ」「ヴィ」などは、一般的（いっぱんてき）には「バ」「ビ」と書（か）くことができるとしたことが基礎（きそ）になっています。毎日新聞（まいにちしんぶん）だけでなく、他（ほか）の新聞（しんぶん）やテレビなど多（おお）くのマスコミが今（いま）もそれを守（まも）っています。

　では、音楽（おんがく）の教科書（きょうかしょ）はどうなっているのでしょうか。教育芸術社（きょういくげいじゅつしゃ）と教育出版（きょういくしゅっぱん）社（しゃ）の２社（しゃ）が、小中学校（しょうちゅうがっこう）の教科書（きょうかしょ）を発行（はっこう）しています。いずれも小学生（しょうがくせい）用（よう）では「ベートーベン」、中学生（ちゅうがくせい）用（よう）では「ベートーヴェン」と表記（ひょうき）しています。２社（しゃ）に聞（き）くと、教育芸術社（きょういくげいじゅつしゃ）が発行（はっこう）する「文部科学省（もんぶかがくしょう）編（へん）『教育（きょういく）用（よう）音楽（おんがく）用語（ようご）』」にもとづいているといいます。

　音楽（おんがく）用語（ようご）」は２０１３年（ねん）５月（がつ）に第（だい）３刷（ず）りが発行（はっこう）されました。「まえがき」には、学校（がっこう）の教科書（きょうかしょ）で使（つか）われる音楽（おんがく）用語（ようご）の表記（ひょうき）は、原則（げんそく）として「教育（きょういく）用（よう）音楽（おんがく）用語（ようご）」によるとしています。

　ページを開（ひら）くと、ベートーベンは「ベートーヴェン＜ベートーベン＞」と両方（りょうほう）が表記（ひょうき）され、「小学校（しょうがっこう）においては＜　＞内（ない）に示（しめ）す表記（ひょうき）を用（もち）いる」とあります。一方（いっぽう）、中学校（ちゅうがっこう）で「ベートーベン」を使（つか）ってはいけないとは書（か）かれていません。他（ほか）にも、協奏曲（きょうそうきょく）「四季（しき）」で有名（ゆうめい）な「ヴィヴァルディ＜ビバルディ＞」や、バレエ音楽（おんがく）「火（ひ）の鳥（とり）」などで知（し）られる「ストラヴィンスキー＜ストラビンスキー＞」などもあります。

　そもそも外国語（がいこくご）の発音（はつおん）を、日本語（にほんご）に正確（せいかく）に置（お）き換（か）えるのは難（むずか）しいです。例（たと）えば「教育（きょういく）用（よう）音楽（おんがく）用語（ようご）」では、楽器（がっき）でも「ヴァイオリン＜バイオリン＞」、「ヴィオラ＜ビオラ＞」と両方（りょうほう）が載（の）っています。

　教育芸術社（きょういくげいじゅつしゃ）の担当者（たんとうしゃ）は「テストではどちらが正解（せいかい）かという質問（しつもん）が読者（どくしゃ）からもきます。外国語（がいこくご）の名前（なまえ）なので、どちらが間違（まちが）いともいいにくい。学校（がっこう）の先生（せんせい）には、よく考（かんが）えて出（だ）してほしいですね」と話（はな）します。

　文部科学省（もんぶかがくしょう）教科書（きょうかしょ）課（か）の担当者（たんとうしゃ）は「現在（げんざい）、教科書検定（きょうかしょけんてい）をする上（うえ）での決（き）まりはなく、教科書（きょうかしょ）会社（がいしゃ）や著者（ちょしゃ）の判断（はんだん）に任（まか）されています。『ベートーベン』でも『ベートーヴェン』でも、教科書（きょうかしょ）が不合格（ふごうかく）になることはありません。どちらが正（ただ）しいというものではないのではないでしょうか」と話（はな）していました。【石塚（いしづか）孝志（たかし）】