1989年10月12日の近鉄戦でブライアントに特大弾を浴びた渡辺。その後、ベンチ裏で待っていたのは…
ギャラリーページで見る 西武の黄金時代にエースとして活躍し、監督としても日本一に輝いた渡辺久信氏(49)は現在、シニアディレクターとしてチームを支える。ヤクルト、台湾プロ野球時代を含めると18年間に及ぶ現役生活で忘れられない1球は1989年、優勝争いの中で近鉄のラルフ・ブライアント外野手に浴びた痛恨の一発だった。
その瞬間、僕はグラブを壁に投げつけていた。「ナベ! 何でフォークを投げないんだ!!」。森祇晶監督の言葉に、自分の中で「プチ~ン」と切れた音が聞こえたね。監督に背を向け、ロッカールームへと続く階段を上がっていった…。
プロ6年目の1989年、近鉄の主砲ラルフ・ブライアントに喫した一発は、忘れることができないな。
この年のパ・リーグはシーズンの大詰めまで西武、オリックス、近鉄の三つどもえ。首位の西武は10月12日、本拠地で3位・近鉄とのダブルヘッダーを迎えた。連勝し、オリックスが負ければリーグ史上初の5連覇。5-5の八回、それまで2打席連続、47本塁打まで伸ばしていたブライアントの打席で、ブルペンで待機していた僕に出番がやってきた。
カウント1-2と追い込んで選択したのは、ボールになる高めの直球。この球と、ストンと落ちるフォークは、三振も多いブライアントの空振りゾーンなんだ。自信を持って投げ込んだが、ものの見事に捉えられた。打球は右翼ポール際へ伸びて、西武ファンで埋まったスタンドの上段まで運ばれる特大の決勝弾。僕は打球をぼう然と見送るしかなかった。