日本ハム新球場の狭いファウルゾーン、影響はどれほど?
野球データアナリスト 岡田友輔
11月、完成間近の日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」に残念な問題が浮上した。本塁プレートからバックストップまでの距離が公認野球規則で定められている基準(約18メートル)より短い約15メートルしかないことが判明したのだ。
グラウンドに近いスタンドは臨場感をもたらす。米大リーグでは基準が義務ではなく「推奨」ということもあり、18メートルが厳密に守られているわけではない。「小さなことにそこまで目くじらを立てなくても」という声もあるが、日本ではそう定められている以上、1球団だけ例外を認めるのは難しいという主張も理解できる。来年は特例で使用が認められたが、グラウンドは野球の魅力を創出する原点だ。第三者としてはこの問題が良い形で収まり、球場がより魅力的な場所になることを願いたい。
ファウルゾーンが狭くなっても安打が増えるとは限らない
さて、ここでは個別の問題を横におき、ファウルゾーンの広さが野球にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。2000年代以降、多くの球場では臨場感を高めるために、フィールドシートの導入が進んだ。ファウルゾーンの縮小は野球にどのような変化をもたらしたのだろうか。
普通に考えれば、フィールドシートの設置は邪飛の減少につながり、打者を利するはずである。従来ならアウトになっていた当たりが打ち直しになるのだから、投手にとっては厳しくなる。重要な局面で野手が邪飛を捕り損ねたり、観客が捕ってしまったりしてアウトを取り損ねた直後に劇的な一打が生まれ、語り草になっている試合を思い浮かべるファンもいるだろう。
グラウンド内に飛んだインプレーの打球を守備側がどれだけアウトにできたかを示す指標は「DER(Defensive Efficiency Ratio)」と呼ばれる。邪飛が減って打ち直しでの安打が増えれば、DERは下がることが予想される。しかし過去の数字をみてみると、必ずしもそうなってはいない。
近いところで15年のシーズン終了後にフィールドシートを導入したナゴヤドーム(現バンテリンドーム)のDERをみてみよう。データ分析を手がけるDELTAの集計では、同年の7割1分3厘に対し、16年は7割1分8厘と上がっている。これは例外ではない。フィールドシートを導入した前後2シーズンの各球場のDERの変化を調べると、上昇と下落が半々なのである。
意外な結果ではあるが、冷静に考えれば驚くには当たらないのかもしれない。22年シーズンの12球団本拠地の邪飛の数を比べてみると、最多の札幌ドームが1試合当たり平均2.6本だったのに対し、最少の横浜スタジアムでは同1.5本だった。つまり邪飛の本数は、球場によって大きく変わるわけではない。DERを左右するのはファウルゾーンの大小よりも、投手や野手の能力の方がはるかに大きいとみるのが妥当だ。
清宮や万波ら若き大砲候補を後押し
フィールドシートよりも影響が大きいのは、外野フェンスの前に設置されるテラス席である。顕著な例は15年シーズンからテラス席ができたソフトバンクの本拠地ペイペイドームだ。当初は球界屈指の広い球場だったが、いまではホームランの出やすい「ヒッターズパーク」となっている。本塁打の出やすさを示す「パークファクター」は14年は0.72だったが、今季は1.3。かつては平均的な球場より3割ほど本塁打が出にくかったが、いまでは3割多く出るようになった。19年シーズンから「ホームランラグーン」が設置されたZOZOマリンスタジアムも18年に0.65だったパークファクターが今年は1.14に上がっている。
付け加えておくと、本塁打が増えたからといって打撃戦が多くなるとは限らない。外野が狭くなると本塁打以外の長打は減る傾向があり、得点のパークファクターに大きな変化はみられない。また、本塁打のパークファクターはテラスの設置後、数年にわたって上昇し続ける傾向がある。これは狭くなった球場に順応したチーム編成が進み、野球の質が変わるまでには一定の時間を要するためと考えられる。
エスコンフィールド北海道は札幌ドームに比べて外野フェンスも低く、本塁打が出やすくなる公算が大きい。大きな期待を受けながら伸び悩んできた清宮幸太郎や万波中正ら若き大砲候補の脱皮を後押しすることになるかもしれない。
新球場はチーム運営にとっての転機にもなろう。賃料を払って間借りしていた札幌ドームから自前の新球場に移れば、入場料以外に球場での飲食や広告も球団の収入となり、事業規模は拡大する。ポスティングシステムやフリーエージェントを通じた主力の流出が多かった日本ハムだが、補強に使える資金が増えれば、戦力の底上げにつながりそうだ。
今回は地元自治体の北広島市や他業種の企業とも連携し、野球場を核とした街を創造するという壮大なプロジェクトだ。大リーグなどで進んでいる自治体とプロスポーツの緊密な連携は日本ではこれからの課題だが、周辺の地価が大きく上昇するなど新球場の効果は既に出ている。将来、プロスポーツの誘致を検討する自治体にとってはモデルケースになるという点でも、今後の動向を注視したい。