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今年の巨人投手陣は、4月までに6人がプロ初勝利を挙げるなど、若手の台頭が目立つ。今季から投手チーフを務める桑田真澄コーチ(54)は、選手との対話を重視しながら「勝利と育成」の両立を目指す。(宮地語)
ヒントを与え、気づきをうながす
巨人ベンチで、おなじみになった光景がある。イニングを投げ終えた投手に桑田コーチが歩み寄り、話しかける。「次の回、どう入っていこうか」、「失点したことは取り戻せない。ここから粘って投げていけば勝てる」――。まず選手の考えに耳を傾け、その上で意見を言って、最善策を見つける手助けをする。「こちらが答えをわかっていることもあるが、答えを出すために必要なヒントを与えながら、彼らに気付いてもらおうと」
大阪・PL学園高から1986年に巨人入りし36年。その間に、コーチと選手の関係性は大きく変化した。「我々の時代は(コーチに)『はい』『いいえ』しか言えないような時代だった。でも、コミュニケーションは双方向でなければいけない」。2013~14年まで東京六大学野球、東大の特別コーチも務めた経験も生きている。学生と接する中で「言われてやるよりも、自分で気付いてやる、気付く、というのはすごく大事な要素」と感じたという。だからこそ昨季、巨人のコーチに復帰してから、息子以上に年の離れた選手たちと、とにかく会話を重ねる「桑田流」の指導を続けている。
勝つための哲学、数値化されない投球術も伝えたい
伝えているのは、勝つための投手哲学だ。自身は野球選手としては小柄な1メートル74の体格ながら、精密なコントロールを武器に巨人在籍21年間で通算173勝を挙げた。「投手の目的はアウトを取ること。160キロやすごい変化球よりも、どうやって打者を抑えるかが大事」。剛速球や魔球をただ投げるだけでも、勝利にはつながらない。
近年技術が進化し、球速だけでなく、回転数や回転軸など数値化される様々な指標が注目されるようになったが、打者を抑えるためには数値化されない投球術も必要だ。「できるだけ打者に球を見せないように隠して投げるとか、タイミングを一定にせずに、少しずつ微妙にずらすとか、緩急をつけて、人間の錯覚を利用するとか。そういった職人的な感覚は数字には表れない。コントロールも数値化できないので、目に見えない部分も指導していきたい」と話す。
守備も打撃も走塁もマスターし、完投勝利の感動を
「守備も打撃も走塁も総合的にできないと、セ・リーグで勝てる投手にはならない」も持論の一つ。野手にひけをとらない通算110犠打は球団歴代7位で、ゴールデン・グラブ賞は8度。今の選手たちにも、投球以外にも勝利に貢献する「9人目の野手」になってもらおうと、本拠地での試合前には投手陣のために打撃投手を務めることもある。
4月29日に阪神戦が行われた東京ドーム。試合開始の4時間ほど前に戸郷、高橋、山崎伊、新人の赤星優志(日大)、シューメーカーの先発投手5人が、バットを片手に早出練習中のグラウンドに姿を見せた。選手らは打撃練習で次第に豪快なスイングで柵越えも披露し、笑顔で汗を流した。「我々の時代は、必ず3連戦で1回はやっていた。たまにでもいいので、(打撃の)感覚をつかんでおくのはすごく大事。タイムリーを打てば自分が楽になり、チームが楽になる」と狙いを明かす。
努力を重ねた先に待つ喜びも、伝えたいという。特に完投勝利の味は格別だった。「完投して最後の打者を打ち取った時の感動、これは何にも代えがたい。これを味わってほしいんですよ。六回でマウンドを降りて、抑えが締めて勝った1勝と、自分が最後まで投げて勝った1勝、感動の度合いが全然違う」
自身は2年目に14完投、4年目には自己最多の20完投を記録した。「投球術を身につければ、中5日でも135球くらいは投げられて、完投だって2桁できると思う。僕みたいな体格でもやってきたわけだから。1イニング、1球でも多く投げられる投手になってもらいたいね」
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