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主戦場はサイバー空間に-「イスラム国」残党との戦い、なおも続く

  • IS側はオンラインでイメージ戦略通じ立て直し図っている公算
  • ISはピーク時、外国人兵士4万人の軍隊をイラクとシリアで指揮

イラク軍は7月10日、国内第2の都市モスルを過激派組織「イスラム国」(IS)から奪還した。イラクのアバディ首相はISに対する「全面的な勝利」を宣言。有志国連合を率いる米軍のタウンゼンド中将はISにとってモスル陥落は「決定的な打撃」だと述べた。米軍が支援するクルド人とアラブ人の勢力はISがシリア内で拠点とするラッカを制圧しよう準備を進める中で、トランプ米大統領は「ISの壊滅」を予言した。

  ISがシリアとイラクにまたがる地域に「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)国家」を樹立したと宣言してから3年。ISにはもはや高度な攻撃を指揮する作戦拠点はなく、軍事的な敗北に直面している。ISの年間収入は2014年には20億ドル(約2220億円)近くあったが、16年には8億7000万ドルを下回った。

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モスル(2017年7月)

PHOTOGRAPH: IBL/REX/SHUTTERSTOCK

  ISはピーク時、欧州からの6000人を含む外国人兵士4万人の軍隊をイラクとシリアで指揮していた。欧米の元情報当局者が設立した民間企業ソウファン・グループのマーティン・リアドン上級副社長によれば、その幹部の大半はモスルを巡る戦いで死亡し、ISの残党は数千人だ。これらの兵士はイラクのスンニ派地域に逃れ、サイバー空間を通じてISのイメージを再構築し、態勢の立て直しを図ると見込まれるという。

  米陸軍士官学校のテロ対策センターは、ツイッターに投稿された映像やイラスト付きのリポート、写真などの「映像メディア製品」の数が15年8月-16年9月に75%減ったと分析。欧州当局がヘイトスピーチ(憎悪表現)を抑制するよう求めたことなどから、テクノロジー各社も対策を強化した。

  米フェイスブックは今、30余りの言語においてテロリストのコンテンツを特定・削除するためフルタイムの社員150人を充てている。同社はグーグルやツイッターなど他社とも協力し、テロリストを特定する「デジタル指紋」のデータベース作成に取り組んでいる。

いたちごっこ

  だが、幽霊を追い掛けているような状況にも直面する。ISの工作員はソーシャルメディア内で突き止めることが難しいアカウントを作るのが得意だ。実際に使われるまで休眠状態が続くアカウントだ。ツイッターやフェイスブックから締め出されたISは「テレグラム」や「ワッツアップ」といった暗号化されたプラットフォームに目を向けている。これによってオーディエンスの数は減るかもしれないが、情報収集当局にとっては追跡が一層難しくなる。

  テロリストの投稿を削除するための大規模な作戦も、成果は限定的だ。米国家安全保障局(NSA)と米サイバー軍は昨年、合同で「グローイングシンフォニー作戦」を展開。ISの映像とソーシャルメディアのハンドルネームの大量排除に成功したが、そのコンテンツの大半が数日以内に再び確認された。

  フェイスブックのテロ対策責任者ブライアン・フィッシュマン氏は「特効薬はない。プラットフォームを安全に保つため新たな能力を開発したとしても、テロリスト集団はそれを監視し、対策を講じる。われわれが戦っているのは頭が切れ、献身的で集中力を備えた敵だ」と述べている。

原題:Islamic State Is Dying on the Battlefield—and Winning on the Internet(抜粋)

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