砂糖や人工甘味料の入った飲料を1日2杯以上飲む人は、肥満とは無関係に一部のがんによる死亡リスクが上昇することが、米国の研究(*1)で明らかになりました。

砂糖や人工甘味料の入った飲み物をよく飲む人は、一部のがんによる死亡リスクが上昇していることが分かりました。(写真=123RF)
砂糖や人工甘味料の入った飲み物をよく飲む人は、一部のがんによる死亡リスクが上昇していることが分かりました。(写真=123RF)

加糖飲料や人工甘味料は、肥満とは別にがんのリスクを上げる?

 肥満は多くのがんのリスクを上昇させることが知られています。砂糖の入った加糖飲料を日常的にたくさん摂取していれば、体脂肪が増え、BMI(*2)が上昇し、それとともに肥満関連のがんになる危険性は上昇します。これに加えて、加糖飲料は、肥満とは無関係に特定のがんによる死亡のリスクを上昇させることもいくつかの研究で示唆されていました。

 一方、「砂糖は肥満のもとだから」と考えて人工甘味料を使用する、または、砂糖の代わりに人工甘味料が入った飲料を選ぶという人は決して少なくないと思います。しかし、人工甘味料が添加された飲料も、何らかの経路を経てBMIを上昇させる可能性や、がんのリスクを上昇させる可能性が示されるようになりました。

 そこで、米がん協会(ACS)の研究者たちは、100万人近い米国住民のデータを用いて、加糖飲料および人工甘味料入り飲料の摂取とがん死亡の関係を検討することにしました。

11種類の肥満関連がんを含む20種類のがんとの関係を検討

 分析に用いたのは、がんによる死亡の危険因子を明らかにするために設計された大規模かつ長期的な疫学研究「Cancer Prevention Study-II」のデータです。この研究に参加した米国に住む28歳以上の人たちのうち、1982年の登録時点でがんではなかった人を選び、登録時の年齢や性別、人種、身長、体重などのほか、病歴や学歴、生活習慣(飲酒、喫煙、食生活、運動習慣など)に関する情報を収集しました。登録時点で90歳を超えていた男性と95歳を超えていた女性、糖尿病患者(糖尿病患者はがんのリスクが高いと考えられるため)、登録時点の加糖飲料または人工甘味料入り飲料の摂取量が記録されていなかった人などは除外しました。

 加糖飲料と人工甘味料入り飲料の摂取状況に関する質問では、摂取習慣の有無と摂取量、頻度、および過去10年間に摂取習慣に変化があったかどうかなどを尋ねました。加糖飲料、人工甘味料入り飲料の両方について、参加者を「全く飲まない」、「1日1杯未満」、「1日1杯」、「1日2杯以上」に分類しました。

 がんによる死亡は、11種類の肥満関連がん(食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、閉経後の乳がん、子宮体がん、卵巣がん、腎臓がん、多発性骨髄腫)と、肥満関連ではない9種類のがん(口腔/咽頭/喉頭がん、肺がん、小腸がん、前立腺がん、膀胱がん、メラノーマ、脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫、白血病)、計20種類のがんについて調べました。

*1 McCullough ML, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2022 Oct 4;31(10):1907-1918.
*2 BMI(Body Mass Index:体格指数)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)。 日本肥満学会はBMI18.5未満を低体重、18.5~25未満を普通体重、 25以上を肥満としている。

加糖飲料をよく飲む人は大腸がんや腎臓がんのリスクが上昇

 条件を満たした93万4777人を27.7年(中央値)追跡しました。その間に13万5093人ががんで死亡していました。

 加糖飲料の摂取は、20種類のがん全体の死亡リスクとは有意な関係を示しませんでした。人種や喫煙習慣、パートナーの有無、学歴、赤身肉や加工肉の摂取など、BMI以外で分析に影響を及ぼす可能性のある要因を考慮して、加糖飲料の摂取と死亡リスクの関係を検討しましたが、加糖飲料を全く飲まない人たちと比べ、1日に2杯以上摂取していた人々にがん死亡リスクの上昇は見られませんでした。

 しかし、肥満関連がんに絞ると、1日2杯以上摂取していた人々のがん死亡リスクは、全く摂取しない人の1.05倍になっていました。しかし、分析において考慮する要因にBMIを追加すると、リスク上昇は有意ではなくなりました。

 BMIを除く要因を考慮し、20種類のがんのそれぞれによる死亡と加糖飲料の摂取の関係を検討したところ、摂取量が多い人において、いくつかのがんによる死亡のリスクが高いことが示されました。考慮する要因にBMIを加えた後も引き続き加糖飲料の摂取との関係が有意だったのは、大腸がん(1.07倍)、非ホジキンリンパ腫(1.14倍)、腎臓がん(1.14倍)の3つで、それらのがんによる死亡リスクは、BMIとは無関係に、加糖飲料の摂取量が増えるほど高くなる傾向が見られました。

 続いて、人工甘味料入り飲料について検討しました。人工甘味料入り飲料の摂取と、20種類のがん全体の死亡リスクには有意な関係は認められませんでした。肥満関連がんによる死亡リスクは、全く摂取しない人に比べ1日に2杯以上摂取する人で1.05倍になっていましたが、考慮する要因にBMIを加えると、この関係は有意ではなくなりました。

 個々のがんについての検討で、BMIを考慮に加えても人工甘味料入り飲料の摂取と有意な関係を示したのは、膵臓がん(1.11倍)でした。

 以上より、加糖飲料の摂取が多い人では、大腸がん、非ホジキンリンパ腫、腎臓がんによる死亡リスクが、人工甘味料入り飲料の摂取が多い人は膵臓がんによる死亡リスクが、それぞれ肥満とは無関係に上昇していることが分かりました。

大西淳子(おおにし じゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにし じゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday(グッデイ)2022年12月26日掲載]情報は掲載時点のものです。

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