本四高速値下げ、歓迎と困惑が交錯
観光業界、関西からの集客期待 JR四国など、経営に悪影響懸念
国土交通省と四国4県など10府県市が本州四国連絡高速道路の通行料金を2014年度をめどに他の高速道路並みに下げることで合意した。四国からは「方向性が示されたことを評価する」(四国経済連合会の常盤百樹会長)と評価する声が相次いだ。一方、公共交通などは深刻なダメージを受けることも想定され、反応は分かれる。
自治体は評価
合意の柱は、(1)10府県市の本四への出資は12、13年度は減額し継続(2)14年度以降は本四の債務を他の高速道路も負担し、料金を一般高速道路並みに引き下げる、の2つ。
出資打ち切りを強く求めていた自治体側は合意を高く評価している。出資する4県知事以外でも、瀬戸内しまなみ海道(西瀬戸自動車道)を抱える愛媛県今治市の菅良二市長は、「長年、料金軽減を要望してきたので大変喜ばしい」とした。
観光業界からも「高知の観光客は関西圏からが最も多い。(料金引き下げの)効果はあると期待している」(高知県観光コンベンション協会)「四国は高速料金が高いというイメージがなくなる」(徳島県鳴門市のホテル「ルネッサンスリゾートナルト」)と好評。
物流業界も愛媛県トラック協会が「10年から全国の高速道路と一体的な料金とするよう求めてきたので、実現に近づいた」(板倉友弘事務局長)と歓迎している。
一方で悲鳴を上げるのが公共交通機関だ。四国旅客鉄道(JR四国)は「現状においても(本四の)休日割引などの影響で減収だ。さらなる割引は経営に極めて大きな影響を及ぼす」(泉雅文社長)と警戒を強める。念頭には、昨年終了した高速道路の土日祝日上限1000円割引がある。
四国・本州間をつなぐ唯一の鉄道路線である瀬戸大橋線は1000円割引導入後、利用者が急減し、赤字拡大の原因となった。その後、国はJR四国に対し、経営安定基金の事実上の積み増しなど計1800億円を支援。目先、収支は安定するかに見えるが、14年度以降の料金引き下げは平日も適用され、影響は休日だけだった1000円割引の比ではない。
同じくフェリー業界にも暗雲が漂う。本州四国間の航路を運航するフェリー会社は「経営が成り立たなくなる」(四国旅客船協会の長谷部光明専務理事)という。高松港と宇野港(岡山県玉野市)をつなぐ宇高航路の存続を目指す協議会などは、すでに実証実験を始めている再建策の抜本的見直しを迫られる公算が大きい。
出資に曖昧さ
料金引き下げを評価する自治体側は「国の政策である高速道路施策の結果、影響を受ける公共交通機関の支援は国が責任を持つべきだ」(香川県の浜田恵造知事)と主張する。何らかの支援策がないまま本四の料金引き下げだけが先行すると、鉄道やフェリーなどの経営に深刻なダメージを与える可能性がある。
もう一つの課題は、繰り返される「あいまい決着」だ。徳島県の飯泉嘉門知事は20日の会見で、14年度以降の出資金について「地元としては出資はないと考えているが、調整会議で国から負担はないとの確答を得られなかった」と明らかにした。
そもそも、本四高速は道路公団民営化の過程で、巨額の負債を効率管理するため切り離された。今回の合意による債務統合には法改正も必要で、実現性には疑問符も付く。
年度当たり50億円強と、10府県市の中でも高額な負担をしてきた愛媛県の中村時広知事は20日、今後の負担額について「突出して巨額となるのを受け入れることはできない」と語り、大幅な減額を求めた。地元の負担軽減とあわせて、四国の公共交通も含めた総合的な交通体系をどう維持するかの議論も必要だろう。(高松支局 嶋田有)