変わるラジオ㊥

FM〝大競争〟時代へ 9割超のAMが転換 生き残りかけ番組強化

今、ラジオ業界が大きな転換期を迎えている。収益力が低下する中、設備投資などで負担の大きいAM局の多くが令和10年秋までのFM放送への転換を目指している。FM放送が乱立する時代を迎えれば、各放送局の差別化が必要になる。生き残りをかけた斬新な番組作りがすでに始まっている。

FMが共同制作

今春、ラジオ業界で注目の番組が始まった。京阪神のFM3局が共同制作した番組をそれぞれ同時生放送する関西では初の試み。局の垣根を越えてリスナーを獲得しようとする、全国的にも珍しい取り組みだ。

京阪神のFM3局、α―STATION(FM京都)とFM大阪、Kiss FM KOBE(兵庫エフエム放送)が今春スタートさせた共同制作同時生放送の番組は「サタデー・ジャンクション」(毎週土曜日午前11時~午後0時55分)。

関係者によると、3局の社長が定期的に行っている食事会でアイデアが出て、実現に至ったという。「京阪神はひとつの経済圏。手を組めばより多くのリスナーを取り込める。聴取エリアが広がると広告費の単価も上がる」というわけだ。

3局が持ち回りで制作し、同時放送している。ディスクジョッキー(DJ)はαが川原ちかよさん、FM大阪が遠藤淳さん、Kissが藤原岬さんの3人。新旧の洋邦のヒット曲と京阪神の週末のおでかけ情報、おすすめスポット、グルメ情報などを発信する。

反響は予想以上だった。放送開始の4月3日に開設した公式ツイッターは、約半年でフォロワーが1万人を突破。番組単体のフォロワー数の増え方としては異例のペースという。

DJの3人も従来の番組にはない手応えを感じている。川原さんは「オープニングのトークで紹介した話題の反応が、即座に番組の公式ツイッターに投稿され、その投稿を番組内で紹介することでさらにリスナーの輪が急拡大していく」と話す。かつてははがきやファクスでやりとりしていたリスナーとのやりとりの手段が変わり、スピード感は格段にアップした。藤原さんも「リスナーの一体感や絆の強さを肌で感じる」と驚きを隠さない。

制作側も、この番組の反響から「コロナ禍でラジオ、それも生放送が強く求められている」(Kissの片平享伸(たかのぶ)・編成・事業部長)と痛感したという。

AMもFM「取り入れ」

令和2年のラジオ広告費は15年前の約4割減になるなどラジオの凋落(ちょうらく)が言われて久しい。そんな逆境のなか、コロナ禍でのテレワークや自粛生活の影響で人々がラジオの魅力を再発見。学生時代、熱心に聞いていた人々が戻ってきている。

AM局のラジオ大阪で平成31年4月から始まった平日朝の帯番組「ハッピー・プラス」(午前7時~同11時)のDJのひとり、若宮テイ子さんは、平成の時代、FM大阪の洋楽番組などで大活躍したDJ歴約35年の大ベテラン。コロナ禍での変化を敏感に感じ取っていた。

「『親子三代で若宮さんのトークを楽しんでいます』だとか『あの時、オギャーと生まれたこの子も大人になりました』といったメッセージをいただき、ラジオの力を思い知った」と話す。

ラジオ大阪の「ハッピー・プラス」パーソナリティの若宮テイ子さん(手前)とプロデューサーの竹内啓さん=大阪市港区のラジオ大阪(前川純一郎撮影)
ラジオ大阪の「ハッピー・プラス」パーソナリティの若宮テイ子さん(手前)とプロデューサーの竹内啓さん=大阪市港区のラジオ大阪(前川純一郎撮影)

従来、音質がより優れているとされてきたFM放送が得意としてきた音楽番組。それを、FMよりも広範囲に放送を届けられるAM局で取り組むコンセプトも奏功した。プロデューサーの竹内啓(あきら)さんは「朝の帯番組として男性DJが各紙の朝刊の話題を紹介する従来の形態ではなく、女性DJを据え、70~80年代の洋邦のヒット曲とトークに絞り、他局と差別化を図った」と説明。「FMとAMのいいとこ取り」と胸を張った。

FMが主戦場に

AM放送は設備整備などにかかる負担がFMより大きく、全国のAMラジオ局は、電波の送信コストを抑えられるFM放送への転換や併用をにらんできた。

AM局の朝日放送(ABC)ラジオ、嶋田一弥・編成統括本部長はインターネットで全国各地のラジオを聴けるradiko(ラジコ)の登場が、従来地域限定だったFMの可能性を広げたことを指摘。「FMの聴かれ方が変わったことが大きい。中継局がどれほど必要かも含め、FM化の議論が必要だ。国の支援も期待したいところだが」と苦しい胸の内を打ち明ける。

今年6月には、全国に47局あるAM局のうち44局が令和10年秋をめどにFMに移行する方針を表明した。それに先立ち、5年秋にはAMを停波した場合の影響などを検証する総務省の実証実験が始まる。47局のうち21局が参加の意向を示し、今後主戦場となるFMでの前哨戦が始まる。

各局ともすでに水面下で「FMとAMのいいとこ取り」を始めているといい、あるFM業界のベテランは「かつて〝トークは2分まで〟が常識だったFMの番組が、AM対策でトークの比重を高めている」と指摘する。DJの若宮さんも「既にラジコの画面上はFMとAMは同じ土俵に立っている」と話す。

AM、FMの垣根を超えた切磋琢磨(せっさたくま)を新たなリスナーを呼び込むきっかけとできるのか。ラジオ局の挑戦が続く。(岡田敏一)

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