不合理な現状に対する、新たな観点からの異議申し立てである。

 夫婦別姓を選べないのは戸籍法の欠陥で憲法違反だとして、会社社長の男性らが、精神的苦痛への損害賠償を国に求めて東京地裁に提訴した。

 これまでは、結婚で夫の姓に変更した女性が、夫婦同姓を定めた民法の合憲性を問う訴訟が多かった。

 今回は妻の姓に変えた男性が原告の一人となり、民法ではなく戸籍法を問題にした。

 価値観が多様化する中、夫婦同姓に限定する制度をいつまで続けるのか。司法は切実な訴えを重く受け止め、判断を示してもらいたい。

 提訴したのは、ソフトウエア開発会社「サイボウズ」の青野慶久社長と、神奈川県の女性、東京都の事実婚の男女の計4人である。

 原告らは、戸籍法の規定が日本人と外国人の結婚・離婚や、日本人同士の離婚の後は同姓か別姓かを選べると定めているのに、日本人同士の結婚で別姓を選択できないとしているのは不合理な差別だと主張。法の下の平等を定めた憲法に反すると訴えた。

 「名字を変えたくない」という妻の言葉で青野氏は戸籍上、改姓した。しかし、仕事で旧姓の「青野」を使い続けたところ、生活に支障が出ているという。

 出張時には、改姓したパスポートに合わせた航空機やホテルの手配が必要となり、契約書に署名する際は、どちらの姓で書くべきか確認しなければならない。株主総会では、戸籍上の姓を使うよう強いられる。

 男女にかかわらず起きている問題だとし「経済合理性から見ても日本の損失になっている」との言葉は、聞き流せない指摘だろう。

 夫婦の姓を巡っては、法制審議会が1996年に、同姓か別姓かを選べる「選択的夫婦別姓」制度を盛り込んだ民法改正案を答申した経緯がある。ところが、自民党の保守系議員らの反対で、今も国会提出に至っていない。

 「別姓は家族を崩壊させる」というのが主な反対理由だ。しかし、同姓に限っている国はほとんどない。海外では別姓のために崩壊する家族が多いというのだろうか。

 最高裁は2015年に、夫婦同姓を定めた民法の規定を合憲とした上で、「制度の在り方は国会で論じて判断されるべきだ」とし、国会に議論を促した。

 国連の女性差別撤廃委員会は再三、同姓規定を改正するよう日本に勧告している。

 今月初めには、最高裁判事に就任した宮崎裕子氏が、同判事として初めて旧姓を使うことを明らかにした。

 多様な生き方を認め、選択肢を広げる「選択的夫婦別姓」の導入は、時代の要請といえよう。

 国会は重い腰を上げて、早急に議論を始めるべきだ。

 司法も国会の動きを待つのではなく、自らの役割を果たす時である。