バイオ航空燃料開発、競争一段と ミドリムシや古着も
飛行機向けバイオジェット燃料の開発競争が熱を帯びてきた。ユーグレナが藻の一種、ミドリムシからジェット燃料を精製する実証プラントは2日に完成した。リサイクル事業の日本環境設計(東京・千代田)も日本航空と組み、古着由来の燃料を研究中。2021年から航空会社に対する二酸化炭素(CO2)排出量規制を控え、次世代燃料の開発が急務だ。
「日本をバイオ燃料先進国にする」。ユーグレナの出雲充社長は横浜市で開いたプラントの竣工式で宣言した。新施設はミドリムシから搾った油と廃食油を混ぜ、バイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料を作る。
17年9月期の連結売上高(138億円)の4割に当たる58億円を投じた。25年の商業プラント稼働に向け、量産技術やノウハウ研究を進める。
同社は25年までに実証プラントの2千倍にあたる生産能力を持つ商業プラントを建設。石油由来の燃料と同程度のコストまで下げる計画も明らかにした。
藻類由来燃料を研究する企業は他にもあるが、食品なども手掛けるユーグレナは藻の培養技術に強みがある。精製部分では米石油大手のシェブロンから技術供与を受けた。ANAホールディングス(HD)は20年までにユーグレナのバイオ燃料を使った商業飛行を検討する。
ANAHDがバイオ燃料に注目する背景には、国際民間航空機関(ICAO)が21年から始めるCO2排出規制がある。20年実績を超える場合には、新たに排出枠を購入しなければならない。国土交通省は規制開始から数年後、国内航空大手2社の負担額が年数十億円にのぼるとみる。航空各社にとり、排出量を大幅に減らすにはバイオ燃料の活用が不可欠だ。
意外なものからバイオ燃料を作る動きもある。高島屋日本橋店(東京・中央)などには古着の回収箱を設置している。持ち込んだ消費者に古着と引き換えでバイオ燃料フライトの抽選券を渡す。日本航空は日本環境設計と連携し、古着の綿繊維から糖を抽出して作るバイオ燃料で20年までに商業飛行を目指す。
国内ではまだ試験飛行の実績しかないが、海外ではバイオ燃料を使った商業飛行が始まっている。米ユナイテッド航空は16年、米国の航空会社で初めてバイオ燃料を定期便に利用した。ノルウェーのオスロ空港では、廃食油などを原料としたバイオ燃料を給油している。世界ではバイオ燃料を用いた商業飛行はすでに15万便運航した。
需要拡大に石油依存からの脱却をもくろむ米石油最大手も触手を伸ばす。エクソンモービルは藻類由来のバイオ燃料の生産に乗り出した。藻類燃料の開発に取り組む米シンセティック・ジェノミクスと組み、25年までに1日当たり1万バレルの藻由来のバイオ燃料の生産体制を整える。スタートアップの米アルジェノールも藻の培養研究を進める。
「バイオ燃料の実用化の鍵は価格だ」。ANAHDのCSR推進部の竹久正人マネージャーはバイオ燃料のコストを課題にあげる。ユーグレナの実証プラントでは製造コストが1リットルあたり1万円で、石油由来の燃料に比べ約100倍だ。
日本航空機開発協会(JADC)によると、全世界の航空旅客者数は17年までの10年間で約2倍に増えた。航空旅客需要は今後も増え続けるとみられる。
電気自動車(EV)の普及で、燃料から電気へのシフトが鮮明になる一方、重量が大きく運航距離も長い飛行機は、燃料に頼らざるを得ない。ユーグレナは船舶への給油も視野に入れる。
今回のユーグレナの実証プラントは年産125キロリットルと、大型タンクローリー6台分にすぎない。先行する欧米勢に追いつき、追い越せるか。国内勢はようやくスタートラインに立ったところだ。
(坂本佳乃子)