三菱電機は,同社の暗号アルゴリズム「MISTY」を応用した暗号方式が,次世代移動体通信システム「IMT-2000」の標準方式に採用されたことを明らかにした。採用したのは,IMT-2000の標準化を進める「3GPP」内の暗号検討ワーキング・グループ。次世代携帯電話機を使った電子商取引サービスなどの際に,データを暗号化する世界共通方式になる。国産の暗号技術が,世界の標準方式になるのは,今回が初めてという。

 採用されたのは,MISTYをベースに,携帯電話機向けに設計し直した方式で,名称は「KASUMI」という。開発は,三菱電機の設計者と,3GPPの暗号専門グループSAGE(Special Algorithm Group of Experts)が共同で行なった。1999年7月から開発を始め,11月に完了,その後外部の暗号研究者などに安全性評価を依頼し,安全であるとの評価を得たという。SAGEは,GSM方式の携帯電話機に使用されている暗号方式を開発した実績がある。

 MISTYは,三菱電機が1995年に開発した暗号アルゴリズム。データの暗号化と復号化に同じ鍵を使う,いわゆる共通鍵暗号である。一般的な暗号解読方式である線形解読法および差分解読法を用いても,解きにくいことが理論的に証明されている。鍵データの長さは,128ビット。一回に処理するデータの長さは64ビットである。KASUMIは,暗号化/復号化処理を,MISTYに比べて低消費電力で行なえるとするが,詳細は明らかにしていない。

 MISTYが採用された理由について三菱電機は,「2Mビット/秒のデータ伝送速度に耐えられる高速な処理速度と,10kゲート以下で実装できるという軽量性,および安全性などがトータルで評価された」と述べる。3GPPでは,MISTY以外にも,いくつかの共通鍵暗号方式が候補に上っていたようだ。

 三菱電機は,MISTYを使った電子認証システムや決済システムの構築事業などで,約100億円規模のビジネスを進めている。今回,次世代携帯電話機の標準として採用されたことで,これら関連事業での収益拡大をねらう。さらに,ほかの携帯電話機メーカ向けに,KASUMIの開発ツールの販売や, KASUMIを組み込んだ携帯電話機向けLSIなどの販売を考えている。