新経営体制に移行したジャパンディスプレイ(JDI)が新しい成長戦略を打ち出した。コスト削減とスマホ依存脱却という歴代の経営トップも取り組んできた内容には既視感が漂う。3社目の大型買収を決めた“兄弟会社”のルネサスエレクトロニクスと明暗がくっきりと分かれている。

 「ゲームチェンジだ。今までにない大きな挑戦となる」。液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)のスコット・キャロン会長兼CEO(最高経営責任者)は2月10日、JDIの抜本的な改革を宣言した。

 産業革新機構(現INCJ)が大手電機メーカーの中小型液晶パネル事業を統合して2012年に発足したJDI。14年度以降の苦境を抜け出せず、21年3月期は最終損益が7期連続で赤字となる公算が大きい。売上高の見通しは3425億円と、1兆円近くあったピーク時から3分の1程度まで減る。

「模範はアップル」

 JDIの支援元である独立系投資顧問会社いちごアセットマネジメントの社長で、昨年12月末にCEOに就任したキャロン氏が打ち出したのは2つの方向性だ。一つが既存事業の収益性改善。「今までかかっていたコストをゼロベースで見直し、徹底的に断捨離する」(キャロン氏)。販売価格の適正化と製品ミックスの改善も進め、22年1~3月期にEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の黒字転換を目指す。

 もう一つは新規事業の創出だ。独自のデバイスを軸に、サービスやプラットフォームを組み合わせたビジネスを21年中に複数立ち上げるという。「小規模でスタートし、成功に応じて迅速に拡大していく」(キャロン氏)としたが、「模範となるのは米アップル」「手掛けるのは唯一無二の事業」と説明するにとどめ、取り組みの具体的な内容への言及は避けた。

 この成長戦略には既視感がぬぐえない。コスト削減を軸とする構造改革には歴代の経営トップも取り組んできた。外部からプロ経営者を招いて最終製品やサービスなどの新規事業に乗り出そうとした時期もあった。それでもJDIは、設立当初からの課題だったスマホ向け液晶、とりわけアップルへの依存度の高さを解消できなかった。

 過剰投資で赤字の元凶となった白山工場(石川県白山市)は昨年10月にシャープなどに売却したが、競合する中国勢の台頭もあり収益性は低いまま。アップルが「iPhone」の有機ELパネル採用機種を増やしたことで事業環境はさらに厳しくなっている。

 そのJDIと対照的に攻めの一手を繰り出したのが、“兄弟会社”である半導体大手のルネサスエレクトロニクスだ。「電源管理IC」と呼ばれる半導体のiPhoneなどへの供給で知られる英半導体メーカー、ダイアログ・セミコンダクターを約6157億円で買収すると2月8日に発表した。米インターシルと米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収に計1兆円強を投じたのに続く大型案件だ。

時価総額は50倍超の差に

 JDIとルネサスには「大手電機メーカーの事業統合」「産業革新機構からの支援」という共通点がある。かつて日本企業が強みを持っていた分野で海外勢に対抗するために国内勢が結集した「日の丸」企業だ。

構造改革続けた「日の丸」2社に明暗
●ルネサスエレクトロニクスとジャパンディスプレイの連結最終損益の推移および主な出来事
<span class="textColTeal fontSizeM">構造改革続けた「日の丸」2社に明暗<br /><small>●ルネサスエレクトロニクスとジャパンディスプレイの連結最終損益の推移および主な出来事</small></span>
注:‌ルネサスは2015年度まで3月期、16年度以降は12月期。16年度は決算期変更に伴い9カ月。JDIは3月期。20年度は4~12月期の数値
(写真=2点:ロイター/アフロ)
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 どちらも、余剰だった人員の削減や拠点の閉鎖などを繰り返して経営の効率化を図ってきた。JDIは東証1部上場後の14年3月に約1万6000人だった従業員数が約8600人まで減り、ルネサスは10年6月の約4万8000人から約1万9000人になった。

 ところが、業績では2社の明暗がくっきりと分かれた。ルネサスが2月10日に発表した20年12月期の純利益は456億円。15年3月期以降で最終赤字を計上したのは一過性の要因があった19年12月期のみで、安定的に稼げる状況になりつつある。時価総額はJDIの約400億円に対してルネサスは約2兆2000億円と50倍超の差がついた。

 革新機構からルネサスに転じた柴田英利社長兼CEOが取り組んできたのは、特定の製品や顧客への依存度を下げることと、国内の社員が中心だったルネサスのグローバル化だった。

 事業の撤退や人員の削減を続ける一方で、「アナログ」や「ミックスドシグナル」と呼ばれる半導体に強い企業に狙いを定めて買収を敢行。自動車向けのマイコンに強みがあったルネサスの品ぞろえと人材を拡充してきた。今回のダイアログ買収もその戦略に沿ったもので「製品や技術、販売形態が補完的な関係にある」と柴田社長は話す。

 21年中に完了予定のダイアログ買収後にはグループ全体のエンジニアのうち海外が占める割合が過半になるなど、グローバル企業への転換も進む。買収によって「のれん」が約1兆円まで膨らむリスクを抱えるものの、巨額の企業買収が相次ぐ世界の半導体業界で勝ち残るために攻め続ける道を選んだ。

 翻ってJDIは、これまでと違う実効的な成長戦略を打ち出せるのか。アップルが離れていく中、いや応なしにスマホ用液晶依存から脱却せざるを得ない。これまで何度も挑んできた新しい「鉱脈」探しがまたも失敗に終われば、身を縮める構造改革を続けるしかない。「既存事業の黒字化と事業モデルの変革を同時に進める必要がある」と語るキャロン氏の双肩に重い課題がのしかかっている。

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日経ビジネス2021年2月22日号 14~15ページより目次