日が昇り、日が沈む。日本で、そして世界で毎日繰り返される光景だが、時と場所によっては、そこに心を打つ美が生まれる。
香川県は降水量が少なくため池が多い。そのひとつ宮池(丸亀市)に、夜明け前、大勢のカメラマンが集まった。レンズの先にはうっすらと三角形の山の影が浮かぶ。やがて雲の裂け目から太陽が現れ、山頂と重なった。水面に映り込む逆三角形。歓声が上がり鳥の鳴き声と交ざり合った。
香川県の丸亀市と坂出市にまたがる飯野山(標高422メートル)。均整の取れたおにぎり形が特徴で、名前は古事記に登場する讃岐の国の土着の神、飯依比古(いいよりひこ)に由来している。讃岐平野でひと際目立ち、古くから讃岐富士と呼ばれ親しまれてきた。
平安末期の歌人、西行法師も「讃岐にはこれをば富士といひの山 朝げの煙たたぬ日もなし」と詠んだと伝わる。「飯野」と「言いの」をかけ、朝食時に民家から昇る煙と飯野山の姿を印象的に表現した。
そんな山に毎年春と夏、特別な瞬間が訪れる。好天に恵まれれば、頂上に朝日がピタリと重なった姿が宮池に反射する「ダブルダイヤモンド讃岐富士」を見ることができるのだ。条件がそろう日を狙って通い詰める写真愛好家も多い。
歴史深く神聖な存在である一方、地元の人々にとっては身近な山でもある。丸亀の街から近く、1時間ほどで登れるためポピュラーな散策コースになっている。幼稚園児や保育園児は卒園時、小学生になると5年生が3年生を連れて一緒に登山するのが地域の慣例だという。
犬の散歩で訪れるという坂出市の三好里美さん(49)は「(飯野山は)讃岐のシンボルであり庭のような存在。登山口やコースが複数あるため、その時の気分に合わせて色々な楽しみ方ができるのが魅力」と話す。
尊く、親しい。水面に映る2つの顔のように、どちらも讃岐富士の姿なのだろう。
(写真報道局 萩原悠久人)