『おちょやん』第6週「楽しい冒険つづけよう!」

第26回〈1月11日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』千鳥のやりたいという客に媚びない演目とは何なのか考察する
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

山村千鳥の怒りが炸裂

千代(杉咲花)が入団した山村千鳥一座は、お客さんの入りが悪く、公演が打ち切りの危機を迎えていた。道頓堀の天海一座と同じ。世の中厳しい。
面白くないものにお客さんはお金も時間も使わない。

【前話レビュー】ババアやし…でもあの人についていくと決めたんや(千代、反省)

不入りを心配した座員の清子(映美くらら)が、いま人気の漫画『正チャンの冒険』を演劇化しないかと持ちかけるが、座長・千鳥(若村麻由美)は、「客に媚びを売るようなもの」はやりたくないと頑なに拒む。

日に日にお客が減っていき、いよいよあと半月と引導を渡されてしまった。千鳥は、お客が入らない理由を「あんたたちの芝居が下手だから」と座員のせいにするが、演じているのは、千鳥が主役の『清盛と仏御前』。ほぼ千鳥の独壇場なのである。ほかにも演目があって座員たちが任されていて、それが酷いのかもしれないが。


目下、千鳥は座長芝居をやっていて、それが受けないにもかかわらず座員を怒って、ものを投げつけてばかり(投げ過ぎ)の、理不尽な人であり、ひとっつもいいところがない。25話で、女たちだけの一座を守ってがんばってきた人で、稽古も人一倍しているというところがわかったものの、怒ってばかりで、とっつきにくい。

なんで、こんなに頑ななのか。それは、のちのちわかるのか。それともこのまま悪女のままなのか。そこは今後の展開を待つことにして、とり急ぎ、千鳥のやりたいものとはなにか考察してみる。
客に媚びを売らないものとははたしてどういうものなのだろうか。

朝ドラ『おちょやん』千鳥のやりたいという客に媚びない演目とは何なのか考察する
写真提供/NHK

客に媚びない演目とはなにか 『女の一生』と『人形の家』

24話で彼女は『女の一生』を読んでいた。『女の一生』というと、演劇好きな人だったら、杉村春子の『女の一生』(作:森本薫)を思い出すかもしれない(昨年、大竹しのぶも演じていて、そこに、千代の意地悪な継母・栗子役の宮澤エマも出演していた)。

でもそれは大正時代にはまだ誕生していない。大正2年に日本で初めて翻訳された『女の一生』はモーパッサンの小説で、裕福な家庭に生まれ、修道院で教育されたヒロインが結婚を機に、夫や息子に翻弄されていく物語。千代が、憧れの高城百合子(井川遥)の主演で観て感銘を受けたイプセンの戯曲『人形の家』(初演は明治)と並び称される小説である。

朝ドラ『おちょやん』千鳥のやりたいという客に媚びない演目とは何なのか考察する
写真提供/NHK

ちなみに、山村千鳥のモデルであろう村田栄子は、千代のモデル・浪花千栄子の自伝『水のように』によれば、『人間の家』のヒロインを当たり役とした松井須磨子の一座と芝居をしていた。
つまり『人形の家』『女の一生』は当時の文学や演劇に興味のある者にとって必須作。千鳥がやりたい芝居は教養に裏打ちされた文学性の高い作品といっていいだろう。

『人形の家』はヒロインが女性を「妻」や「母」という役割でしか見ない社会に反旗を翻す結末で、『女の一生』のヒロインはそれとは違う生き方をする。また、千鳥の十八番『清盛と仏御前』の仏御前の場合、一時は平清盛の寵愛を受けるも、やがて、彼の心が移ると、京都嵯峨野の祇王寺で尼になる。「そうして私はだんだんと上様に捨てられていくのでしょう」という仏御前のセリフが染みる。

でもこんなセリフもある。
「私はまだ死にませぬ。生き栄えてゆかねばなりませぬ」 捨てられたってどっこい生きてくという感じのたくましきセリフである。

家を出て自立する女、夫や息子のしたことに耐える女、尼になる女……いろんな女の一生がある。千代はどうなっていくのだろうか。史実はわかっているけれど、あえてここでは触れないでおく。

千鳥の世話係――要するに付き人みたいなものになった千代。
千鳥がものを投げるときのフォローがすっかりうまくなり、四葉のクローバーを見つけるコツもつかんでしまった。セリフはちっともうまくならないが、負けん気だけは人一倍。

千代、ネズミ3になる

清子の熱意に千鳥はしぶしぶ『正チャンの冒険』を座員たちだけでやっていいと許可する。千代はネズミ3の役をもらって大張り切りするも、カフェー・キネマでねずみの役とからかわれる。

そこへ洋子(阿部純子)がねずみの役は重要と助け舟を出す。なぜ彼女が『正チャンの冒険』に詳しいかというと、幼い息子が好きな漫画だったのだ。離婚した夫に引き取られている息子が数日、洋子の元にやって来ていた。
子供より仕事を選んだ洋子。ここにもまたひとつの女の人生がある。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami