原稿一部欠けたまま刊行 故栗本さん「天の陽炎」
2009年に56歳で亡くなった作家、栗本薫さんの小説「天の陽炎―大正浪漫伝説」(角川文庫)が07年の発売時から、原稿の一部が欠けたまま刊行されていたことが8日、分かった。間違って保存した原稿のファイルを編集者に送信したためとみられる。多作で知られ、刊行後に作品を読み返すこともなかったという栗本さんらしい、珍しい手違いだ。
「天の陽炎」は、大正時代を舞台に、満たされない退屈な日々を送っていた美貌の子爵夫人の運命を描く長編。抜け落ちていたのはクライマックス直前で、主人公が自分の人生を「なんて淋しい生なんだろう」と振り返る重要な場面。約6700字分あった。
夫の今岡清さん(70)が遺品のパソコンを確認し、本にはない内容が含まれた原稿を確認した。小学館が配信する「栗本薫・中島梓 傑作電子全集」の監修者が再録に際し、原稿の一部が抜けている可能性を今岡さんに指摘していた。欠けた部分を補った完全版は、8日配信開始の傑作電子全集第19巻に収録された。
栗本さんは中島梓の筆名でも活躍。120巻を超える大河ファンタジー「グイン・サーガ」からミステリー、評論まで幅広い執筆活動で知られ、テレビのクイズ番組にもレギュラー出演していた。
栗本さんの仕事に伴走し、原稿を最初に読む立場だった今岡さんは「栗本は推敲(すいこう)もせず一気に書き、校正もほぼしない。私も忙しく、読み込む余裕がなかった」と釈明。「完全版を読み返すと、栗本の仕事が復活したという感慨が深く、とてもありがたい」と語った。〔共同〕