甲羅進化の謎に迫る最古のカメを発見

2008.11.26
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2億2000年前の原始的なカメ、オドントケリュス・セミテスタケアの想像図。最近中国でこのカメの化石が発見された。

 2008年11月に発表された研究によると、この化石は完全な形の甲羅を持っておらず、現在のカメが硬い甲羅をどのように進化させたのか、そのミッシングリンクを埋めるものとなるかもしれないという。

Illustration courtesy Marlene Donnelly
 最新の研究によると、中国南西部で世界最古と目されるカメの化石が発掘されたという。「カメはいかにして甲羅を手に入れたのか?」という進化上の謎が解き明かされるかもしれない。 今回発掘されたカメの化石は2億2000万年前のもので、完全な甲羅には包まれておらず「背甲」と呼ばれる背面側の甲羅を持っていなかったことが判明した。一方、腹面側を覆って保護する平らな「腹甲」は完全に発達していた。

 今回の発見は、カメの甲羅が最初は下側の腹甲から形成されたという説を支持するものだ。この説では、腹甲の形成後、肋骨(ろっこつ)や背骨から骨質の組織が拡張発達し、最終的に結合して今日のカメに見られるような典型的な甲羅が形成されたと考えられている。

 甲羅の進化に関してはほかの説もある。カメの甲羅は皮膚組織が骨質のヨロイとなった「皮骨(osteoderm)」が融合して発達したというものだ。皮骨は一部の恐竜に見られるもので、現在でもワニなど一部の爬虫類が持っている。

 しかし、オドントケリュス・セミテスタケア(Odontochelys semitestacea、「甲羅が半分で歯のあるカメ」の意)と名付けられた先史時代のカメには皮骨は存在しなかった。今回の研究成果は、「Nature」誌の最新号に掲載されている。

 研究チームの一員で中国の北京にある中国科学院・古脊椎古人類研究所(IVPP)のチュン・リー氏は、「現在までのところ、皮骨説を支持する直接の証拠は発見されていない。逆に、今回の発掘によりカメの進化のミッシングリンクを埋める理想的な化石が手に入った。背中に皮骨はなく、存在したのは骨化した中枢神経系の神経板と拡張発達した肋骨だけであった」と話す。

 また、今回の研究は、現在のカメも同様の仕組みで甲羅を形成していることがカメの胚発達過程から実証されるという点も指摘している。「腹甲が先に発達したとすれば、これは原始のカメが海で生活していた証拠と考えることができるかもしれない。海では捕食動物から腹部を保護する必要があるからだ。海水域もしくは淡水域かは断言できないが、おそらく原始のカメは海や三角州の境界領域で生息していたと推測できる」とリー氏は語る。

 リー氏によると、古生物学者はオドントケリュスのようなカメの発見を長年待ち望んできたという。今まで最古のカメとされていた化石は、既に完全な形の甲羅を備えていたのである。

 カナダにあるトロント大学のロバート・ライス氏は今回の研究を受けて次のように話す。「今回の化石標本は非常に素晴らしい発見だ。しかし、この化石には別の進化過程の解釈を当てはめることも可能だ。未発見のもっと古い時代のカメがいて、今回のカメは既に甲羅が縮小変化してしまった後だという可能性もある。実際、ウミガメの多くが水中の生活に移ると甲羅を縮小させている」。

 そして、ライス氏は今後の研究の展望を次のように語る。「これからも新たな化石が発見される見込みは十分にある。進化の謎をめぐるパズルは徐々に埋まってきた。しかし、依然として今回発見されたカメとカメ以前の祖先との間には形態構造に大きなギャップが存在している。また、オドントケリュスはほかのカメには見られない特徴をもう1つ備えている。それは歯だ。基本的に、オドントケリュス以外のカメはすべて歯ではなくクチバシを持っている。カメは歯のある爬虫類の祖先から進化したと考えられるので、歯のあるカメがいることは予想していた。しかし、まだ発見しなければならないことが残されている」。

Illustration courtesy Marlene Donnelly

文=Brian Handwerk

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