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磁気テープなぜ復活? 生産量3年連続プラスに

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 「磁気テープへの問い合わせが最近増えました」とのIT(情報技術)会社社員のつぶやきに、神田のご隠居、古石鉄之介が「わしもカラオケに使っておるぞ」と応じた。探偵の松田章司が「磁気テープ復活?ワケがありそう」と調査へ出た。

企業、データ保存に重宝

章司はまず家電量販店のビックロビックカメラ新宿東口店(東京都新宿区)を訪ねた。録画再生用のDVDブルーレイ・ディスク(BD)が山積みの広い売り場の一角に、カセットテープ数種類のお買い得パックが積まれていた。店内には録音再生機も20機種ほどが陳列されていた。

「まだ売っているんだ」。章司が驚くとオーディオコーナー主任の冨樫豊さん(35)が「カセットテープの人気は根強く、いまも一定の販売量があります」と教えてくれた。インターネットで音楽を購入し、携帯プレーヤーなどで聴く時代にはなったが「ネットが苦手な年配のカラオケ愛好家らが使っているようです」と冨樫さん。

とはいえソニーはポータブル型録音再生機3機種の販売をやめると昨年末に発表。映像用ビデオテープは店頭に並べても売れなくなったという話を聞かされて「やっぱり磁気テープはなくなる運命か」と章司はため息をついた。

すると富士フイルムの記録メディア事業部担当部長の江尻清美さん(54)が声をかけてきた。「磁気テープを使った記録メディアには音楽・映像用だけでなく、コンピューターのデータ保存用もあります。実はデータ保存用の需要が徐々に伸びています」

江尻さんがサンプルを取りに行っている間、章司はタブレット(多機能携帯端末)で経済産業省の統計を調べた。磁気テープ生産量は2012年度に約3億7732万平方メートルと前の年より7%弱増え、3年連続のプラスに。90年代の約5分の1の水準で、価格低下で生産額も減少しているが「確かに生産量は上向いている」と納得した。

震災で信頼性に再評価

江尻さんはプラスチック製の見慣れない磁気テープ(LTO)を見せてくれた。外見は厚めの文庫本サイズ。中には幅約1.3センチメートル、長さ800~1200メートルの細長い磁気テープが巻かれている。カセット1本でブルーレイ・ディスク約100枚分のデータを保存できる。「データ保存用はハードディスクドライブ(HDD)が主役ですが、企業や自治体は磁気テープも再評価しています」と江尻さん。

章司が「磁気テープは音楽・映像用に一定量使われていますが、データ保存用に需要が伸びています」と報告すると、所長が問いかけた。「なぜ今、見直されているんだ」

再び調査に出た章司がIT大手の日本オラクルを訪ねると、システム事業統括PMO本部長の宮坂美樹さん(44)が質問に答えてくれた。「磁気テープを使った記録システムの売れ行きは堅調です。11年3月の東日本大震災をきっかけに問い合わせが大きく増えました」

震災後、全国の自治体や企業は大災害後も仕事を続けられるようにBCP(事業継続計画)を見直した。被災地の自治体ではデータが失われ、復旧や復興に手間取ったケースがあったので、重要データの保存方法も課題になった。

「データのバックアップ用として優位性が評価されたようです」と宮坂さん。磁気テープは持ち運びが簡単で、他の記録メディアに比べコストが安い。目的のデータを探す時間は遅くなるが、大量のデータを移し替えるスピードは速く、停電でもデータは失われないなどの特性がある。

「実際に使っている人にも聞いてみよう」。章司が静岡県の藤枝市役所を訪ねると、情報政策課の岡村美基男さん(33)が出迎えてくれた。「磁気テープだと運用コストも安いのでコストに敏感な自治体にはありがたいですね」

藤枝市は震災後、友好都市の沖縄県宮古島市に重要情報を入れた磁気テープを月1回送り、互いに保管している。位置情報発信器が付いたジュラルミンケースに厳重なセキュリティーを施し、民間業者が輸送する。ネット回線と専用システムを使って遠隔地に保管する場合に比べ、10分の1以下の費用で済むという。

データ保管という新たな需要をビジネスにする住友倉庫のアーカイブ業務課長の木村権璽さん(44)にも話を聞いた。「震災後は月に数件、金融機関や企業から磁気テープを預かってほしいとの依頼があります」。埼玉県羽生市に昨年1月、磁気テープや文書などを保管する倉庫を建てたという。

記録メディアに詳しい東京大学教授の馬場章さん(55)に磁気テープが見直されている理由を聞いてみた。「磁気テープは実用化して50年以上、記録の原理は変わっておらず、枯れた技術といえます」。新しい技術として普及してきたCDなどの光ディスクは、一般的に普及してまだ約20~30年と磁気テープに比べて歴史が浅い。HDDはコンピューターウイルスにさらされる恐れも出てきた。コンピューターの黎明(れいめい)期から磁気テープを利用してきた自治体や企業にとって「複数の方法でデータ保存するのが理想ですが、コストを考えると磁気テープは有力手段の一つと評価されているのです」と馬場さん。

通りかかった情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ、東京都港区)の市場調査部長の宮繁行さん(56)が意外な話をしてくれた。「ファクスも見直されていますよ」。震災時の連絡手段として機能した事例があったほか、金融機関や企業がネット障害時の非常連絡手段として保有しているという。実際、ファクスの国内出荷額は12年度に3184億円と、前の年を11%上回った。パナソニックは停電時でも充電式電池で使える家庭用ファクスが好調という。

経営戦略論が専門の一橋大学准教授の藤原雅俊さんが「枯れた技術が信頼性や安心感を高めるのでしょう」と解説してくれた。コンピューターの日付設定が原因で誤作動を起こす恐れが指摘された"2000年問題"の際には、データを印刷して保存するために紙の需要が一時的に伸びた。最近ではデジタルカメラなどの撮影データを印刷して見られるフォトブックが人気を集めている。こうした現象は「枯れた技術でもしっかりした特徴があると、再評価されるという好例ですね」と藤原さんは締めくくった。

事務所に戻った章司が「企業や自治体が磁気テープの活用を増やしているのは信頼性やコストを再評価しているためでした」と報告すると、所長が一言。「枯れた技術も捨てたものではないだろう。先達の助言はよく聞くものだぞ」

(山川公生)

[日経プラスワン2013年6月8日付]

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