2022.05.19

日本が新型コロナワクチンを開発できなかった理由…最新科学の「目利き」がいない国で起こる“次の悲劇”

政府がようやく新型コロナ感染症対策を「検証」する有識者会議を立ち上げたが、遅きに失したということだろうか、新聞やテレビなどのメディアの反応も鈍い。8人のメンバーのうち医師は座長の永井良三自治医科大学長を含めて3人、あとはテレビでおなじみの社会学者や経営コンサルタントら医療とは縁のなさそうな人ばかり。

6月をメドに政府への提言をまとめるというが、後手に回りつづけた政府や、迷言を連発した尾身茂の分科会(新型コロナウイルス感染症対策分科会)の実態にメスを入れられるのか――これまでコロナ感染し重症化した患者とその家族、医療や行政の最前線をルポしてきた筆者には心もとない限りだ。

そこで、ノーベル賞有力候補の医学者であり、近著『ゲノムに聞け 最先端のウイルスとワクチンの科学』のなかで、科学的に政府の対応を分析した中村祐輔医薬基盤・健康・栄養研究所理事長にインタビュー。政府のコロナ対策を検証し、また、最新のゲノム科学の結晶ともいうべき、新型コロナワクチンがなぜこの国で生まれなかったのかを聞いてみた。

 

日本のコロナ対策の「大失態」

新型コロナの世界的大流行は、一方でウイルスと戦う“切り札”となったmRNAワクチンなど遺伝子や免疫を扱う技術を表舞台に押し上げた。中村氏は、この分野のオーソリティである。腫瘍外科医としてキャリアをスタートさせた中村氏は、外科手術や抗がん剤によるがん治療に限界を感じ、新たな治療法を求めて渡米。遺伝子研究の道に進んだ。

中村氏の研究は、医学界に衝撃を与え、遺伝性の病気の研究や遺伝子研究に基づくがん治療法の開発が加速する。その後、人間のDNAの全塩基配列を解析する国際的プロジェクト「ヒトゲノム計画」に参加。患者のゲノムを解析し、その患者に最適な治療を選ぶ「プレシジョン医療」にも取り組んだ。

遺伝子や免疫に精通するプロ中のプロの目に日本のコロナ対策はどう映っただろうか。

「感染症対策の基本は、“検査と隔離”です。とくに新型コロナウイルス場合、目まぐるしく変異しますから、科学的に正確な現状把握が不可欠です。感染者の数や、感染したウイルスがどの変異株なのかをできるだけ早く正確に掴まなくては、人びとの行動制限や、必要な病床の確保、新たなワクチン開発など、適切な対策を講じられません。そのためには感染者から集めた膨大な数の検体のゲノム解析が求められます。

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