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【北の富士コラム】尾車親方は文字通り努力の人であった…琴風時代の“努力エピソード”今も印象に残っている

2022年3月22日 05時00分

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尾車親方

尾車親方

◇21日 大相撲春場所9日目(エディオンアリーナ大阪)
 取組の途中で尾車親方の記者会見が放送された。私が一番印象に残っているのは、幕内上位か三役の頃にひざを大けがして幕下まで番付を落とした時である。師匠である琴桜の佐渡ケ嶽親方が付け人として巡業に参加させた。私も審判をして出ていたが、佐渡さん(佐渡ケ嶽親方)は審判を終わって着替える前に体を拭いて、足も拭く。佐渡さんのきれい好きは有名だった。その仕事を琴風にさせていた。
 幕内まで上がった力士に足まで拭かせるのは少しやり過ぎに思ったので「佐渡さん、それはかわいそうだよ」とひと言言わせてもらったが、佐渡さんは「いや、今が大事な時なんです」と言って、その巡業が終わるまで足を拭かせていた。琴風も当然のように、親方の身の回りの仕事に徹していた。
 その後、琴風のひざは完治することはなかったが、不断の猛げいこで大関にまで昇進。幕内優勝も2度経験し、名大関として名を残した。親方となってからも巡業中の事故で首を大けがし、再起を危ぶまれたが懸命のリハビリで奇跡的に再起し、協会のナンバー2の事業部長として八角理事長を支え続けた。文字通り努力の人であった。いみじくも、引退の弁は「努力は裏切らない」であった。ご苦労さんでした。
 今、テレビでは高安が碧山を相手に苦戦している。高安は相当、硬くなっているようだ。押して攻めてはいるが、引かれるのが怖くて足がまるで出ない。見ようによっては慎重に見えなくもないが、私の目には大事に取りすぎている。今から緊張してどうする高安。もっと気を強く持って思い切り攻め、相撲を取ろう。
 全勝を守った高安に次いで、1敗の琴ノ若も翔猿の動きを封じて万全の相撲を見せた。琴ノ若は素晴らしい進化を見せている。驚くほどの早さで強くなっている。もう父親の地位までは、それほど時間はかからないだろう。そして、抜き去る日も遠くはない。
 2敗の阿炎が、また負けた。引く悪い癖がもろに出た。中日に少し述べたと思うが、今場所は先場所ほどの気力も馬力もない。ちらりと馬脚が見えたのは、目の錯覚だと良いのだが。
 そこへいくと若隆景は見事だった。大きな逸ノ城にがっちり右の差し手を抱え込まれ、攻めあぐねたがじーっと辛抱し、機を待った。逸ノ城は完全に持久戦に持ち込む作戦だが、若隆景は満を持したかのように攻めに転じる。左から強烈に絞り上げ、さらに左を前みつに取り直して、一気につり気味に寄って勝負を決めた。かなり自分の相撲に自信を持っているようだ。優勝争いのカギを握るのは若隆景にほかならない。
 ところで、正代がどうやら息を吹き返してきたみたいだ。これまでの合口の悪い豊昇龍に苦戦をしながらも勝ったのは大きい。これで4勝5敗。まだ負けの方が多いが、うまくいくと勝ち越せるかもしれない。気分屋だから、乗ると力を出すタイプ。奇跡の勝ち越しを見せたら男が上がる。
 貴景勝は遠藤に調子を合わせて、押すことを忘れてしまった。せっかく本来の相撲を取れていたのに、この日の相撲はいけません。御嶽海はこの日も強かった。十分に腰を割りながら出足も速い。言うことなしである。
 今場所も早いもので9日目。そして、桜の開花はどうやら29日らしい。花見は帰京してからにするとしよう。
 それでは飯を食いに行ってきます。昼は日本そばを食べました。北海道産の新そば粉を使った十割そばは、やはりうまかった。お好み焼きも食べたいが、いい年こいたじじいが一人でお好み焼きを食っているのは、われながらどうも気味が悪い。それでも、ちょっと行くだけ行ってみよう。では、また明日。
 ごきげんよう。
(元横綱)
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