T・レックス以前の“恐竜王”を発見

2013.11.25
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新発見の恐竜は、体重4トン超、体長が9メートルほどもあったと考えられる。

Illustration by Jorge Gonzales
 あらゆる肉食恐竜の中で最も有名なティラノサウルス。しかし、彼らは常に頂点に君臨していたわけではなかったようだ。9800万年前に生息した巨大な肉食恐竜の骨が新たに見つかった。 ユタ州東部で発見され、シアッツ・ミーケロルム(Siats meekerorum)と名づけられたこの恐竜は、これまで知られていなかったが、北アメリカのティラノサウルスが台頭するはるか以前に君臨した肉食恐竜の“王者”だ。

 ノースカロライナ州立大学(NCSU)のリンゼイ・ザノ(Lindsay Zanno)氏と、シカゴにあるフィールド自然史博物館のピーター・マコビッキー(Peter Makovicky)氏による今回の発見は、ティラノサウルス・レックス(T・レックス)の時代(約6700万年前)より前の大型肉食恐竜について、新たな知見を提供するものだ。

 この二足歩行の肉食恐竜は、体重が4トン超、体長は9メートルほどあったと考えられる。

 研究チームによると、恐竜のシアッツという“ファーストネーム”(属名)は、優れた捕食者というところから名付けたものだという。“シアッツ”は、ユタ州の先住民ユト族の伝説に登場する大食いの怪物の名だ。

◆骨を発見

 ユタ州東部にあるシーダーマウンテン累層の表面に露出していた骨炭の断片を偶然見つけたザノ氏は、すぐにそれが重要な恐竜であることに気づいた。

 この累層から大型肉食恐竜の断片が見つかることはまれだ。「地中に残りがどの程度埋まっているのかわからなかった」とザノ氏は述べる。「しかし、それが大型獣脚類の骨であり、この大陸における獣脚類の進化の歴史の大きな空白を埋めるものだと、見た瞬間にわかったので興奮した」。

 発掘の結果、脊柱、股関節の一部、下肢、足先からなる部分骨格が見つかった。

 ザノ氏は当初、背びれのある大型肉食恐竜アクロカントサウルスのような生物を予想していたが、新発見の恐竜はそれとはまた別物だった。骨の顕著な解剖学的特徴から、この恐竜はネオベナトル科という最近新たに確認された肉食恐竜の分類に属することが判明した。ネオベナトル科は、さらに前の時代に生息した有名なアロサウルスの系統だ。

 先に発見された同じ科の恐竜ネオベナトルと同様に、シアッツは大きな頭のティラノサウルスに比べて先のとがった、すっきりした頭部をしており、また、T・レックスでおなじみの短い前肢ではなく、比較的長い3本爪の前肢をもっていたと考えられる。

◆不完全な骨格

 今回見つかった骨格は不完全で、しかも幼体のものだったため、成熟したシアッツの正確な大きさははっきりとはわからない。

 他の恐竜のより完全な骨格と比較した結果、「シアッツの幼体は最低でも体長約9メートル、体重約4トンはあった」と推測されるとザノ氏は述べる。

 これはかなりのサイズであり、「幼体のシアッツでも、これまで北アメリカで発見された肉食恐竜の中で3番目に入る大きさ」だとザノ氏は述べる。見つかったのが未成熟な個体であったことから、成体はさらに大きかった可能性がある。

「今後の発見次第で、シアッツの成体が既知の肉食恐竜では世界最大級であったことが明らかになるかもしれない」とザノ氏は述べている。

◆ティラノサウルス以前の王者

 大きさだけがシアッツの重要な要素ではない。「シアッツの巨大な骨が埋まっていた岩盤から、比較的小さい、大型犬ほどのティラノサウルスの歯も見つかった」とザノ氏は述べる。

 初期のティラノサウルスは、シアッツのようなアロサウルス上科の大型肉食恐竜の陰に隠れて生きていた。「ティラノサウルスが、いまの我々がイメージする大型肉食恐竜へと進化できるようになったのは」、シアッツなどの恐竜が姿を消した後のことだとザノ氏は述べる。

 2010年の共同研究において最初にネオベナトル科を確認したオックスフォード大学の古生物学者ロジャー・ベンソン(Roger Benson)氏も、やはりシアッツが肉食恐竜の歴史の空白を埋める存在だと考えている。

 これまでは、アクロカントサウルスのようなアロサウルス上科の大型恐竜と、北アメリカの巨大なティラノサウルスとの間を埋める「2500万年分のデータが欠けていた」とベンソン氏は述べる。

 9800万年前のシアッツが見つかったことは、「アロサウルスの系統が少なくともさらに1000万年は頂点に君臨し続けたことを示す」とベンソン氏は述べる。しかし、シアッツのような恐竜が一体いつ、どのような理由でティラノサウルスにその座を明け渡したのかは、ティラノサウルスが生きた恐竜時代の末期、白亜紀に関する今後の発見を待たねばならない。

 今回の研究は、「Nature Communications」誌に11月22日付で発表された。

Illustration by Jorge Gonzales

文=Dan Vergano

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