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水俣病確認65年 「公害の原点」世界も注視

 工場排水に含まれたメチル水銀によって引き起こされた水俣病の公式確認から、きょうで65年となる。熊本県・水俣湾近くに住む幼い姉妹らが原因不明の病になり、1956年5月1日に保健所へ報告された。

 水俣病を世界に伝えた米写真家ユージン・スミス夫妻の写真集を原作とする映画「MINAMATA」が今秋、国内で上映される。夫妻が70年代初め、熊本県水俣市に住み、カメラを通して患者と向き合う姿を描いた作品だ。

 昨年2月のベルリン国際映画祭で初上映された。日本国内での上映を機に、今も続く患者の苦しみをはじめ「公害の原点」とされる水俣病の教訓を次世代へ継承する意味を改めて確認したい。広く世界にも伝える価値があるはずだ。

 この1年でも水俣病問題に関わった人々が高齢のため次々と鬼籍に入った。被害者団体「水俣病出水の会」会長、尾上利夫さんは昨秋82歳で亡くなった。自らも病と闘いながら潜在する被害者を掘り起こし、水俣病被害者救済法成立(2009年)につなげた。漁師の家に生まれ不知火海の魚を食べて育った。

 水俣病の原因が、チッソ水俣工場が水俣湾に流し続けた排水である疑いは早くからあった。水に含まれたメチル水銀は魚介類を通じて人体をむしばんだ。国や県は規制せず、施設の操業は1968年まで続いた。住民の命より経済を優先した。その罪の深さは例えようもない。

 国が水俣病と認定し補償対象とした患者はこれまで2200人余にすぎない。最高裁は2004年、被害拡大を防げなかった行政責任を認め、国の基準より幅広い救済を認めた。被害者救済法はこれを受け制定され、国は未認定だった5万3千人余を被害者と認め一定の対応をした。それでも対象外とされた人々が司法に救済を求めている。

 そして今、新型コロナ禍も被害者の動きに影を落とす。感染対策を理由に、熊本地裁では国などに対する損害賠償訴訟の審理が遅れ、原告側は「高齢化は深刻で私たちには時間がない」と早期の判決を求めている。

 水俣病問題の最終的解決を阻んでいる要因には、国の認定基準の厳しさや差別を恐れて進む被害の潜在化などがある。救済法の対象地域(熊本、鹿児島両県6市3町)外にも感覚障害などを訴える住民は少なくない。実態調査が不可欠である。胎児性患者の救済も未解決だ。

 水俣病の反省も盛り込まれ17年に発効した「水銀に関する水俣条約」により、近年は欧米が日本の水俣病問題の動向を注視している。世界に衝撃を与えたミナマタは終わっていない。

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