発射場に関する記者会見を開いた太田信一郎社長(右から2人目)ら
発射場に関する記者会見を開いた太田信一郎社長(右から2人目)ら

 キヤノン電子やIHIエアロスペースなどが出資するロケット会社スペースワン(東京・港)は、和歌山県串本町に建設を計画している民営ロケット発射場の起工式を行った。日本のロケット発射場は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が所有する種子島宇宙センター(鹿児島県)と内之浦宇宙空間観測所(同県)だけで、完成すれば、日本では初めての民間のロケット発射場となる。和歌山県串本町は紀伊半島の先端に位置し、「本州最南端の町」を掲げる。なぜ選ばれたのか。

 「射場の名前は『スペースポート紀伊』です」。起工式後に開催された懇親会でスペースワンの太田信一郎社長は射場の名称を明らかにした後、「宇宙ビジネスのゲートウェイのキーとなる射場にしたい」と意気込みを語った。

 スペースワンはキヤノン電子とIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の4社が出資、設立した共同出資会社。建設中のスペースポート紀伊は2021年夏までの完成を目指しており、国の審査を経て、21年度中に開発中のロケットの初打ち上げを実施する方針だ。20年代半ばには年間20回のロケット打ち上げを目指している。

 11月16日に建設地で行われた起工式には、キヤノンの御手洗冨士夫会長やIHIの斎藤保会長だけでなく、自民党の二階俊博幹事長らも出席した。

 スペースポート紀伊は完成後、宇宙活動法による国の審査を通れば、国内のロケット発射場としては3カ所目となる。これまでJAXAが所有する2カ所しかなかったのは、「国内には民間でロケットを打ち上げたいというニーズがなく、発射場を増やす必要性がなかった」(スペースワン関係者)ためだという。民間企業が宇宙ビジネスに参入するための法整備も進んでいなかった。

 ただ足元では小型衛星の需要が高まりロケットの打ち上げビジネスの機運が高まっている。18年11月に人工衛星や打ち上げ輸送ロケットに政府の許可を義務付ける宇宙活動法が施行され、企業による宇宙活動のルールが整備された。スペースワンが発射場の整備に動き出したことで、「スペースワンの成功が、今後の日本の宇宙ビジネスを大きく左右する」(業界関係者)との声も多い。

 国内の2つの発射場が鹿児島県にあるのに対し、スペースワンは和歌山県串本町を選んだ。ロケットの打ち上げ地は南であるほど、赤道に近くなることで引力を有効活用できるといわれている。さらに万が一、ロケットの打ち上げが失敗したときに備えて、打ち上げ時はロケットの大きさに比例して一定の範囲内を無人にしなければならない。

 JAXAの施設がいずれも鹿児島県にあるのは、これらの条件に合致することと、建設当時は沖縄が日本に返還される前だったことが影響しているという。

 スペースワンの場合、ロケットを製造するIHIエアロスペースの工場が群馬県富岡市にあることから、陸路でロケットを運べる場所を選ばなければならなかった。こうした条件を満たす場所であり、かつ和歌山県などの地元が協力的だったことから、串本町に決まった。串本町の田嶋勝正町長は「串本だけでなく、紀南や和歌山の夢を乗せている。協力して成功させたい」と期待を寄せる。

 発射場の建設は順調に進んでいるが、課題は山積みだ。串本町へのアクセスは南紀白浜空港から車で約1時間20分もかかり、周辺に宿泊施設は少ない。交通渋滞への対策などと併せて、今後の環境整備が必要になりそうだ。

重機を使い、山を切り開く作業が進む建設地
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