欧州ブランド「3強」、独立系争奪 主戦場は宝飾・時計
仏LVMH、米ティファニーに買収提案
【ニューヨーク=高橋そら】ルイ・ヴィトンなどを傘下に持つ仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LMVH)が米宝飾品大手ティファニーに買収を提案した。手薄な高級時計・宝飾部門を強化し、同分野大手のリシュモン(スイス)を追撃する体制を整える。高級ブランド業界は欧州3強に集約されたが、高級時計のロレックスやシャネルといった「独立系」もまだ残る。巨大ブランドが他社を取り込む動きがさらに進む可能性もある。
「ティファニーとの取引に関する予備的な議論をしている」。LVMHは28日発表した声明でこう述べた。欧米メディアの報道によると、買収額は約145億ドル(約1兆6000億円)に上り、実現すれば同社最大規模の買収案件となる。
LVMHは欧州の高級ブランドを束ねる「巨人」だが、ティファニーのような時計・宝飾ブランドは手薄だった。売上高全体に占める時計・宝飾品の割合は9%の41億ユーロと、競合であるスイスのリシュモン(同100億ユーロ)の半分にとどまっている。コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーによると、宝飾品は高級品市場のなかで最も有望な分野で、18年の売上高は世界で前年比7%増の180億ユーロだった。LVMHはティファニーの買収で同分野を大幅に強化したい考えだ。
現在、世界の高級ブランドは「3強」と呼ばれる欧州の3大グループに集約されつつある。最大手のLVMHは高級かばんのルイ・ヴィトンなどを持ち、18年12月期通期の売上高は468億ユーロ(約5兆7000億円)に上る。「タグ・ホイヤー」などの高級時計や「ドン・ペリニヨン」といった酒類など幅広い分野を抱えるのが特徴だ。2位のリシュモンは「カルティエ」など時計・宝飾部門に強みを持つ。3位の仏ケリングはイタリアのブランド「グッチ」が売上高の6割を占める。
これら3強は、どのグループにも属さない「独立系」と呼ばれるブランドの買収で拡大してきた。LVMHは11年にイタリアの高級時計「ブルガリ」を約4200億円で買収。17年には傘下のクリスチャン・ディオール社を完全子会社にした。米高級アパレルのマイケル・コース・ホールディングスも18年にイタリアの「ヴェルサーチ」を買収するなど、足元で合従連衡が激しくなっている。
米ティファニーのほかにも、ロレックスやパテックフィリップ、シャネルなど多くの独立系ブランドが巨大資本の傘下に入らずに残っている。高級時計や宝飾品の製造には、時計の原価だけでなく、広告費や開発費にも莫大なコストがかかるため巨大資本の傘下に入るメリットは大きい。
ティファニーは米中関係の悪化のあおりを受け、ニューヨークなど大都市で中国人客による購入が減少したほか、香港のデモ激化も年後半の収益を押し下げる。株価は買収提案が伝わる前の25日時点で1株98ドルと1年前より6%安く推移していた。米投資銀行のアナリストは「過去数年で見ても割安だ」と話す。足元では仏ケリングがスイスの高級時計パテックフィリップの買収を検討しているとの観測もある。LVMHによるティファニー買収が実現すれば、新たな業界再編の呼び水となるかもしれない。