彼が相撲協会を解雇された時、父は私に「お前は何も悪くない。堂々としてなさい」と言ってくれました。離婚を決めた時は、父を裏切ってしまったような気持ちがあって、申し訳なかった。でも父はそう言ってくれた。晩年、父の顔を見に行くと体調が悪そうにしていましたが、私の顔を見るたびに「堂々としていなさい」と言い続けていました。
父は体調を崩してからも、家族に何か言い残そうとすることもなかったし、遺言もなかった。でも、私が最期に受け取った言葉は「ずっと心配していたんだ」でした。
父は一代年寄だったので、娘の誰かに力士と結婚して部屋を継いでもらいたいという気持ちはそれほど強くはなかったようです。「力士を婿にしろ」と言われたこともなかったのですが、自然な流れで、私の意思でそうなった。結婚が決まると、父は大喜びでしたが、交際発覚直後から「博打好きだぞ」「博打は身を滅ぼすぞ」と彼のギャンブル癖のことを心配していました。それがあのような形(相撲協会を解雇)になったので、父の中にはそれを心配する気持ちがずっとあって、最期に伝えたかったのかもしれません。
※週刊ポスト2021年8月13日号