絶滅危惧のセミクジラ、相次ぐ不穏死 3週間で6頭

カナダのセントローレンス湾、死因は未解明

2017.06.28
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ニュージーランド、オークランド諸島(亜南極諸島)のミナミセミクジラ(Eubalaena australis)。(PHOTOGRAPH BY BRIAN J. SKERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
ニュージーランド、オークランド諸島(亜南極諸島)のミナミセミクジラ(Eubalaena australis)。(PHOTOGRAPH BY BRIAN J. SKERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 絶滅危機に瀕する大型動物が数週間のうちに相次いで死んだとなれば、保護活動に関わる人々は、原因究明のためにあらゆる手を尽くす。

 一見したところ健康そうなタイセイヨウセミクジラ6頭が、カナダのセントローレンス湾で死骸となって見つかった。現在、カナダ水産海洋省、動物保護団体のマリン・アニマル・レスポンス協会、カナダ沿岸警備隊などが、力を結集してクジラの死因を探っている。(参考記事:「中型クジラ82頭が集団座礁で大量死、米国」

 タイセイヨウセミクジラは、クジラの中でも特に希少な種だといわれている。国際自然保護連合(IUCN)によると、かつては数万頭が暮らしていた北西大西洋における現在の生息数は、わずか350頭だという。カナダ水産海洋省は、世界のタイセイヨウセミクジラの数を500頭と推測している。(参考記事:「大西洋掘削が海洋生態系に及ぼすリスク」

CBC NewsによるTwitterの投稿。「セントローレンス湾で今月、6頭のセミクジラの死骸が見つかった」とツイートした。

 6月6日に報告のあった1頭目の死骸は、ニューブランズウィック州の東に位置するマグダレン諸島(マドレーヌ諸島)沖を漂っているところを発見された。(参考記事:「アラスカに漂着した謎のクジラ、新種と判明」

「この種の場合、たとえ1頭であっても、その死は種全体にとって大きな痛手となります」と、マリン・アニマル・レスポンス協会のトニア・ウィマー会長は語る。タイセイヨウセミクジラは、20世紀に捕鯨が原因で激減したのち、生息数が回復することのないまま現在に至っている。カナダでは絶滅危惧種法の対象とされ、米国では海産哺乳動物保護法によって保護されている。

 最初の死骸が見つかってから約2週間後の6月19日に2頭目、6月20日に3頭目が発見された。ウィマー氏によると、そのほかの3頭の死骸が見つかったのは6月20~23日までの間だそうだ。

「これほどの短期間に、同じエリアでクジラが立て続けに死ぬというのは、極めて異常に感じられます」とウィマー氏はいう。「大災害と言っていいでしょう」(参考記事:「極めて異例、ザトウクジラ200頭が南ア沖に集結」

クジラの死因は?

 セントローレンス湾周辺の海には、十数種のクジラ目が生息している。なかにはシロイルカなど、夏には必ずこの海に戻ってくる種もある。しかし活気ある港のそばでは、海洋生物は船にぶつかったり、有毒物質に汚染されたりなど、多くの危険にさらされる。

 2013年のある報告書には、水質汚染物質、騒音、餌となる生物の減少、地球温暖化などのすべての要素が、セントローレンス湾のシロイルカの生息数に打撃を与えているとある。シロイルカがすむ海域は、セミクジラのそれと重なる。またシロイルカとは違い、クジラが餌にしているのは、気候の変化に影響を受けやすい動物プランクトンだ。(参考記事:「【動画】川で迷子のシロイルカ、飛行機で海へ」

 ウィマー氏ら地元の保護団体は、クジラの死骸を岸に上げて検視を行い、死因を特定することを検討している。結果が出るのがいつにはるのかはまだわからないが、死骸はすでに腐敗が始まっていることから、事態は一刻を争う。死因には、すぐに判明するものもあれば、見ただけではわからないものもある。

 6頭のクジラに共通する死因が判明すれば、研究者や政府が、漁業を規制する、船の航路を変えてクジラの通り道を避けるといった対策を提案できるようになる。

「一つの団体だけでは、この事態に対処することは不可能です」。ウィマー氏は、種の救済には協力が不可欠だと強調する。「現在我々は、セミクジラを絶滅の淵からなんとか引き上げようと活動しています」(参考記事:「変わりゆく海を守る 米国の海洋保護区」

文=Sarah Gibbens/訳=北村京子

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