2014.09.08
# 雑誌

スペシャル対談 養老孟司×内田樹 日本人はなぜ、「バカ」になったのか

——「ありのまま」「ネトウヨ」「ヘイトスピーチ」を大批判

他人には攻撃的な言葉を投げつけるのに、自分のことは「ありのままで」と肯定する。すべてをカネで解決しようとし、立場を有利にするためにとにかく怒る。最近、ヘンな人が増えていませんか?

非理性的で攻撃的

内田 最近、「日本人の知性が劣化している」とよく言われます。つまり、日本人はバカになったんじゃないかと。確かに今、非理性的な推論をしたり、ひたすら攻撃的な言辞を弄する人たちがずいぶん目立ちます。

でも、僕は社会全体の知性の総量は変わってないと思うんです。従来なら知性が発動していたはずの領域が知性的でなくなっている。逆に、僕たちの知らないところが知性的に活性化している。そうして「知の分布の変化」が起きているんじゃないでしょうか。

養老 内田さんがよく引用する勉強しない高校生の話があるじゃないですか。成績の悪い生徒ほど、そのことに満足しているという。

内田 教育社会学者の苅谷剛彦さんが行った調査ですね。'79年と'97年に同じ高校でアンケートを取ったら、約20年の間に大きな変化があった。成績が低いことに達成感を感じる生徒集団が登場してきた。学校教育が求めるものを否定する自分に自尊感情を持つという、衝撃的な話でした。

養老 つまり、「自分はこれでいいんだ」と開き直って、「成績の低い自分が好き」と自己肯定してしまうんですね。おそらく、その傾向が強まっていて、そういう人たちが大人になっているんじゃないですかね。

内田 当時はまだ少数でしたが、さらに20年近く経っていますから、今調査をやれば確実にその集団は増大していると思います。

養老 さらに、個人が公の社会や共同体と切れちゃって孤立化している状況がある。例えば横浜市なんかは単身世帯が3分の1にもなるんですって。戦後の日本は、善意に言えば、自立した「市民」を作ろうとしてきたわけだけど、その結果生まれた今の社会は全く成熟せずに、「市民」が成り立たなくなっている。

内田 共同体や家族を解体し、市民を「アトム(原子)化」するのは、市場経済の要請です。アトム化すると、地域や親族間で相互に支援し合っていた家事や育児が商品化される。無償で利用できたサービスや資源をすべて市場で、貨幣で買わなければならなくなるので、消費活動は活発になります。GDPを増やすには市民を孤立させ、生きるために要るものをすべてカネで買わざるをえない仕組みにするのが最も合理的ですから。

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