新日鉄住金、チタン多芸多彩、100色以上OK
新日鉄住金は金属素材の優美さを引き出した意匠性の高いチタン製品の新ブランド「TranTixxii(トランティクシー)」を立ち上げた。チタン表面に薄い酸化皮膜をつくることで光の屈折角を調整し、100色以上の発色を可能にした。デザイナーなどに素材の特性を訴え、建築物や時計、飲食容器向けなどで展開する。
新日鉄住金のチタン・特殊ステンレス事業部にはチタンを使いたい顧客から日々要望が届く。「寺に生えているコケのようなチタンをつくってほしい」。フランス人デザイナーから突拍子もない依頼メールがコケの写真と共に届いたのは4年前。パリ市が施主のマンションの外壁に採用したいとの趣旨だった。
デザイナーのコンセプトは「都市景観と建物の一体感」。パリ市内の緑と同化するようなコケ模様にこだわりを持っていた。技術部チームは表面に凹凸で模様を浮かび上がらせる「エンボス」加工をチタンに施してコケを表現したが、デザイナーにあっけなく却下された。
「顧客の要望に合いそうな金属表面の加工技術を試して、サンプルを送っては『不採用』の繰り返しだった」と開発を担当した山口博幸主幹は振り返る。突破口を開いたのは、チタン製品の企画・開発を手がけるホリエ(新潟県燕市)の表面技術。チタンを高温長時間加熱して、結晶の粒を粗大化させることで表面に浮かび上がる発色の濃淡の不規則さが、自然のコケのように見えた。
技術チームが「最後のチャンス」と願ってサンプルを送ったところ「採用」の返事がきた。1年半以上の試行錯誤の末、努力が実った瞬間だった。コケ風チタンを外壁全面にあしらったマンションは2016年に竣工し、パリ市内の一角にそびえ立つ。
金属の中でチタンは断トツに軽い。銅やニッケルの半分で、鉄の4割ほどの軽さとされる。他にも「熱に強い」「さびない」「高強度」などの特長があり、自動車や航空機のほか、防衛や建築の分野まで広く使われる。
その中でも、金属表面に酸化皮膜をつくり100色以上の発色が可能な新日鉄住金独自のチタン製品を「トランティクシー」としてこのほどブランド化した。意匠材としての引き合いが強く、建材から時計、マグカップなどと用途は今も広がっている。「顧客の要望に応じて柄や色のバリエーションは今後も増やしていく」(山口主幹)
トランティクシーの販促に立ちはだかる壁が価格だ。鉱石から取り出す製錬技術が難しいためチタンの単価は高く、一般建材としてはステンレスなどに挑む立場だ。こうしたイメージに対し、「長期間の補修費用を考慮すれば、チタンの方が割安」と知見徹摩建材室長は反論する。
トランティクシーには特殊な表面処理を施し、薄い板状に延ばす圧延工程の際にチタン表面に生成される炭化チタンなどの不純物の量を低減させている。炭化チタンは酸性の雨に反応する性質があり、チタンが茶色に変色する原因物質だ。
実際にチタンが使われた建材が20年後に変色している物件がある一方、新日鉄住金製を採用した大分銀行ドーム(大分市)を完成15年後の昨年に調べたところ、色調変化は極めて小さかったことが証明されたという。
浅草寺(東京・台東)で本堂に続き、五重塔でも屋根瓦がトランティクシーに置き換わった。飲食店からも食器などに使いたいとの問い合わせが相次ぐ。「今後は自動車の内装材や家電製品にも用途を広げたい」(知見建材室長)と意気込む。
チタンは埋蔵量が豊富ながら酸素との結合エネルギーが非常に大きく、製錬技術が難しい。大量生産できないため、希少金属(レアメタル)に分類される。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)との相性がよく、軽量化のため航空機への採用が増えている。耐久性の高さや意匠性が評価され、寺院や建築物への採用も広がっている。
新日鉄住金の鉄鋼事業は2017年3月期に営業赤字に転落。これまでの営業赤字はリーマン・ショックなどの特殊要因が理由だったが、今回は原料価格高騰に対し、鋼材価格への転嫁が遅れた。世界の粗鋼生産の半分を占める中国の影響力が強まる中、業績を改善しにくくなっている。チタン事業は成長途上だが、鉄鋼以外の分野でも利益を積み上げることが必要だ。
(企業報道部 安原和枝)
「日経産業新聞 2017年9月26日付」