第92回 女王に会いたくなった! 軍隊アリ密着レポート(前編)

パルビスピナム バーチェルグンタイアリの野営の巣の一部
Bivouac of army ant, Eciton burchellii parvispinum
黒い働きアリの体長:6~7 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)

 前回、グンタイアリの襲来について書いたが、あれから1カ月ほどの間に我が家へ3度の襲来があった。なぜなのか? まさにグンタイアリに翻弄される日々が続き、この連載の更新も遅らせることになってしまった。恐縮だが、これが昆虫中心生活(笑)。

 でも、おかげでグンタイアリについていろんな情報が得られ、写真や動画もたくさん撮影できた。今回は、その1カ月近くにわたる「グンタイアリ完全密着レポート」の前編。

 我が家にやってくるのは、グンタイアリの中で最も研究されているバーチェルグンタイアリ。1カ所に巣を持たず、狩りをしながら移動を繰り返すことが知られている。兵隊アリと働きアリたちは、木の洞(うろ)や、倒木の下で自ら鎖のように絡み合い、サッカーボール大からそれ以上の大きさの「野営の巣」を設け、そこから狩りに出かけては、戻ってくる。

 野営場所の移動頻度は、毎日のように移動する「放浪期間(約2週間)」と、移動せずに同じところに野営を設けたままにする「静止期間(約3週間)」がある。まるで遊牧民、あるいは「寅さん」のような生活だ。

 しかし、ぼくはここモンテベルデで何度もバーチェルグンタイアリの隊列に出会っているが、まだ野営の巣の場所を確認できないでいた。アリの隊列を追ってみても、いつも途中でわからなくなっていたのである。アリに詳しいモンテベルデの学者に尋ねてみても、やはり見失ってしまうことが多いそうだ。

 ところが先日、ついに野営の場所を突き止めた。

 おやつの時間(午後3時)ごろ、グンタイアリの隊列を観察していると、何やら違う方向へ向かう列ができ始めた。よく見るとそこには、巣の中にいるべきサナギのマユや幼虫をくわえたものもいる。巣の引っ越しを始めた様子だ。

 どこからどこへ移動するのだろう? ぼくは木々の間をすり抜け、引っ越しの列を遡ると、あった! 大きな木の根元の土の中からウジャウジャ黒い物体が湧き出しているではないか。 ここが野営の巣の場所だ!

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この矢印のあたりからグンタイアリが湧き出している。(写真クリックで拡大)
引っ越しするパルビスピナム バーチェルグンタイアリと、矢印はグンタイアリのサナギのマユにくっついていっしょに移動するムクゲキノコムシの仲間(甲虫目:ハネカクシ上科)
Moving army ants, Eciton burchellii parvispinum carrying their larvae and pupae. Arrows showing cephaloplectine horseshoe crab beetles. (写真クリックで拡大)

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