夫婦別姓「議論しよう」と“保守派”の稲田朋美議員が説く理由

2020年11月4日 06時00分

夫婦別姓について話す自民党の稲田朋美衆院議員

 夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗ることを認める「選択的夫婦別姓」制度について、国会での議論を求める声が高まっている。「保守派」として知られ、別姓に反対してきた稲田朋美衆院議員(自民)は最近、メディアなどで「議論すべきだ」と発信している。考えが変わったのか。真意を聞いた。(奥野斐)
 ―夫婦別姓に以前は「反対」でした。
 そうですね。反対でした。今も、いわゆる選択的夫婦別姓には反対ですが、「婚前氏こんぜんし続称制度」(仮称)という新たな制度をつくって、旧姓を法的に使い続けられるようにしませんか、と提案しています。
 別姓というと、「家族解体運動」や「戸籍廃止論」と結び付けられがちですが、こうしたイデオロギー問題とは離れ、どうすれば旧姓を使い続けたい人を救済できるか、議論すべきだと思う。
 2015年に初めて、最高裁で民法が夫婦別姓を認めていないことが違憲ではない、という合憲判決が出ました。しかし、その中で女性最高裁判事3人は全員、「問題がある」と判断していたんですね。その背景には、婚姻で女性が男性の姓に変えるケースが96%というのが公平といえるのか、という問題がある。最高裁は国会できちんと議論すべきだと投げかけています。
 ―「婚前氏続称制度」とはどんな制度でしょうか。
 離婚後も婚姻中の姓を名乗ることができる「婚氏こんし続称制度」というのがあります。これと同じように、結婚しても家庭裁判所に届け出ることによって、婚前氏(旧姓)を使い続けられる制度をつくる、ということですね。
 戸籍上は同一戸籍で、例えば戸籍の筆頭者は夫(妻)でも、妻(夫)である自分は旧姓を使いますと届け出れば、旧姓を使う旨を戸籍に明記して、公的には旧姓のみを法的な裏付けを得て、使い続けられるようにします。ファミリーネームは私的な場面で使うことになります。
 ―それは希望する姓を名乗りたい人たちの要望に応えられますか。

夫婦別姓について話す自民党の稲田朋美衆院議員

 例えば、キャリアを築いていて、社会経済活動上使っている名前を結婚後も使い続けたいという人の要望には応えられますよね。ただ、子どもにも旧姓を使わせたいという時は、養子縁組をする必要がありますね。私が言いたいのは、現実を見て、案をみんなで出しましょうということです。これは姓を変えた男性にとっても意味があります。
 ―自民党は旧姓の通称使用の拡大を進めてきました。
 通称である限り、いつまでたっても通称です。海外に行った時に「(通称を示す)このかっこ書きは何ですか?」ということになるし、いつ、どこなら通称を使えるか分からないし、2つも3つも通称を使い分けられるとなると、社会的に混乱するのではと思います。
 ―考えを変えられたのはどうしてでしょうか。
 実際に困っている方の、さまざまな意見を聞く機会が増えたということですね。保守系の女性でも、婚前氏続称制度の話をすると、「ぜひ実現してほしい」とおっしゃる。パスポートにかっこ書きするにも要件がありますし、政治家も、当選証書は戸籍名なので、ある女性が大臣になった時に(氏が違って)「いったい誰?」ということがありました。
 自民党でも、下村博文政調会長は(夫婦別姓について)議論すべきだとおっしゃっています。どうやって女性の不便をなくしていくか。議論しようという機運は今、高まっていると思います。
 ―別姓問題のほか、政調会長時代からLGBTに関する課題にも取り組んでいます。党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」の委員長にも就任しました。
 自民党は「理解増進法」の方針で、段階を踏んでLGBTの方々の気持ちや生き方、当事者にとってどういう問題なのかを、皆で理解しましょうという法律の制定を目指しています。
 息子の知りあいに当事者の方がいますが、若い人たちの間ではまったく分け隔てないんですよね。年配の方には抵抗があったりするので、まず理解を進め、病気や障害、おかしなことではなくて、生きていく上での「核」と思っている当事者を理解する必要を伝えていかなければなりません。
 ―保守派の政治家の稲田議員が別姓やLGBT問題に取り組むことで保守層から反発もあるのでは。
 それは、ありますよ。私ね、国家的にはものすごく「右」ですよね。東京新聞とは違う。歴史観や憲法九条、外交防衛では非常に「右」です。でも、個人レベルの権利という意味では、ひとり親の問題や子どもの貧困、女性活躍、LGBTなど、自由や公平、人権を大切にしています。
 「それって、保守じゃないんでしょうか?」と聞きたい。私はそれも保守だと思う。むしろ保守って寛容だし、人の多様性を認める。さまざまな意見に耳を傾ける謙虚さが真の保守のはずです。最近は「右」も「左」も偏狭になっていることが気になります。もっと立場の違う人の意見も、固定観念にとらわれずに聞くことが日本を良くすることにつながると思いますね。
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