欧州の軍備増強 ウクライナ危機で「米国頼み」に拍車

ロシアのウクライナ侵攻で、欧州各国が軍備増強に動いている。欧州連合(EU)で、加盟国の国防支出は3年以内に約700億ユーロ(約10兆円)増額される見込み。欧州は防衛産業の競争力強化をめざすが、米国など域外からの輸入への依存が一層顕著になっている。(パリ 三井美奈)

ウクライナ侵攻「見本市」

欧州では今年、米国製兵器の発注計画が相次いだ。

バルト三国のリトアニアとエストニアは高機動ロケット砲システム「ハイマース」の調達を決めた。フィンランドは誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)を約5億3500万ドル(約760億円)で購入する。いずれも米国がウクライナに供与し、露軍撃退で威力を発揮したものだ。

無人機では米国以外からの調達計画も目立つ。ドイツやチェコはイスラエル、ルーマニアはトルコから無人機の導入に動いた。フィンランド軍高官は本紙に「ウクライナで無人機攻撃の重要性が示された。今後の戦争を変える」と話した。

ウクライナの戦場は武器「見本市」の様相を呈した。米国は次々と最新鋭兵器を投入し、技術力を欧州に見せつけた。

軍事産業の脆弱さを露呈

2月24日にウクライナ侵攻が始まった後、欧州各国は国防費を国内総生産(GDP)の2%、またはそれ以上に引き上げる方針を表明した。

EU安保を主導するフランスは、軍備の域外依存から脱却する機会と位置付けた。マクロン仏大統領は3月、ベルサイユでEU首脳会議を開き、「欧州の主権を守るのに、装備を外国に頼っては意味がない。防衛産業の構築が必要だ」と訴えた。欧州は軍備の約6割を米国など域外からの輸入に頼ってきたためだ。

だが、欧州軍事産業の脆弱(ぜいじゃく)さも浮き彫りになった。戦車輸出国ドイツは、ポーランドが旧ソ連製戦車をウクライナに供与した後、戦車を補給供与する約束だった。それがなかなか届かず、ポーランドは対独不信をあらわにした。ポーランドは米国にM1A2エイブラムス戦車250両を発注したのに続き、今夏には韓国製K2戦車180両を発注。韓国製を1000両まで増やす方針を示した。

パリの軍事展示会「ユーロサトリ」で紹介された韓国製の歩兵戦闘車=今年6月(三井美奈撮影)
パリの軍事展示会「ユーロサトリ」で紹介された韓国製の歩兵戦闘車=今年6月(三井美奈撮影)

フランスは、自走榴弾(りゅうだん)砲カエサル18基をウクライナに送った。機動性に優れた装備は戦場で効果を発揮し、ウクライナは「もっと欲しい」と要求したが、仏国内で稼働可能なカエサルは76基しかなく、すぐに応じられない。「フランスはEUの軍事大国なのに支援が見合っていない」(ラスムセン前NATO事務総長)と批判を招いた。

F35 予測超え550機配備へ

米国は圧倒的な軍事支援でウクライナを支え、欧州安保の主軸であることを示した。特に、最新鋭ステルス戦闘機F35は欧州で「空の守り」を担うことが決定的になった。ドイツやチェコ、ギリシャが購入意欲を表明。すでに導入を決めたフィンランドやポーランドに続いた。米欧州軍司令官は3月の米下院軍事委員会で、欧州のF35配備は2030年には「550機体制になる」と述べた。前年の予測より100機増えた。

欧州では独仏やスペインが次世代戦闘機を共同開発して40年の導入を目指すが、開発の権限争いなどで難航し、「50年以降になる」の声が出ている。英国やスウェーデン、イタリアは35年の就役を目指す。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のイアン・アンソニー研究員は「韓国が多くの発注を得たのは、迅速な供給体制があったから。軍備は各国が必要なときに調達できなければ、意味がない。欧州は、長年の投資不足のツケが回ってきた」と指摘する。

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