iPS創薬で初の有効性確認、ALSの治験で 慶応大
慶応義塾大学の研究チームは20日、全身の筋肉が徐々に衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)について、iPS細胞を使った研究で見つけた治療薬候補を患者に投与する臨床試験(治験)で有効性を確認したと発表した。病気の進行を約7カ月遅らせる効果があった。iPS細胞を活用した創薬で有効性を確認したのは国内初で、世界でも初めてとみられる。
慶大の中原仁教授と岡野栄之教授らのチームはALSの患者のiPS細胞から病気の細胞を再現。約1200種類の薬剤を試して、パーキンソン病の薬「ロピニロール塩酸塩」をALS治療薬の候補として見いだした。今回、20人の患者が参加した医師主導治験でロピニロールの安全性や有効性を調べた。
治験では患者を2つのグループに分け、一方のグループ(投与群)には1年間にわたってロピニロールを投与し、もう一方のグループ(偽薬群)には最初の半年は偽薬、その後の半年はロピニロールを投与した。
投与群では運動機能や筋力、活動量の低下が抑えられた。さらに、独立歩行が困難になるなど一定の状態に病気が進行するまでの期間が、投与群では約50週と偽薬群の2倍以上に延び、病気の進行を約7カ月遅らせる可能性があることが分かった。
ALSは運動神経の障害で筋肉が徐々に衰える進行性の難病で、国内の患者数は約1万人。個人差があるものの、発症から数年で呼吸器を装着するか亡くなる。既存の薬は病気の進行を数カ月遅らせる効果があるが、慶大のチームが今回治験したロピニロールは既存薬以上の効果を持つ可能性がある。
ALS患者の5~10%は特定の原因遺伝子を持つ家族性で、大多数は原因がはっきりしない孤発性だ。治験では孤発性患者の7割でも効果が見られた。チームは追加の治験が必要かなど当局と協議し、企業とも連携してALS治療薬としてロピニロールの早期の実用化を目指す。
iPS細胞を活用した創薬研究は国内外で活発だ。患者からiPS細胞を作って試験管の中で病気を再現することで、有望な治療薬候補を見つけられると期待されている。慶大は進行性の難聴「ペンドレッド症候群」でも治験を実施しており、京都大学はALSや筋肉の難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」、家族性アルツハイマー病で治験を進めている。