中国共産党100年 強国路線拡大には無理がある

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 ◆普遍的価値観の尊重が不可欠だ◆

 対外的な強硬姿勢は、諸外国との不必要な摩擦を引き起こし、かえって国益を損なう。大国となった中国は、そのことを自覚すべきだ。

 中国共産党が、創設100年の祝賀式典を開いた。

 習近平党総書記(国家主席)は演説で、党が「偉大な飛躍を実現した」と強調し、米国に肩を並べる「強国」の建設に 邁進 まいしん する方針を改めて表明した。

 ◆教訓忘れ「習氏の党」に

 共産党は1921年7月、上海で結成された。労働者や農民の間で勢力を拡大し、国民党との内戦に勝利した49年に中華人民共和国を建国した。

 党が政府や軍を指導し、社会の末端まで組織を張り巡らせる統治体制は、「東亜の病夫」とさげすまれた貧困国を、世界2位の経済大国にまで引き上げた。

 創設時に約50人だった党員は今や9500万人を数える。昨年は、ホワイトカラーの事務職が、農業や水産業などの労働者を初めて上回った。労働者中心の党は「エリートの党」に変容した。

 習氏は「共産党がなければ新しい中国はなかった」と自賛した。だが、共産党には習氏が決して語らない負の歴史がある。

 「建国の父」の毛沢東が個人独裁を強めた結果、経済政策の失敗による飢餓で、数千万人の命が奪われた。自らの権力を固めるために仕掛けた大衆運動の文化大革命で、社会は大混乱に陥った。

 トウ小平は70年代後半から改革・開放政策を導入し、経済大国化の道を開いたが、89年の天安門事件では民主化運動を武力鎮圧し、多くの死傷者を出した。

 苛烈な権力闘争や一党独裁維持のための弾圧で強いられた国民の犠牲に、党は目を背けている。

 今年発刊の「党史」は、天安門事件の犠牲者には言及せず、「制裁した各国に闘争を挑み、日本に率先して制裁を取り消させた」と記した。歴史を自らに都合良く解釈する姿勢の表れと言える。

 毛沢東の暴走を許した反省からトウ小平時代に集団指導体制の構築が図られた。習氏がそれを無視するかのように権力の一極集中を進めているのは問題だ。住民監視などの統制も厳しくなった。

 習氏に対する異論は封じられている。仮に習氏が判断を誤った場合、軌道修正が困難になる事態が心配される。

 ◆国益損なう「戦狼外交」

 習氏の対外強硬路線の問題点は香港の現状に如実に表れている。中英共同宣言は、香港が97年の中国返還後も50年間、高度な自治が保障されることを明記した。習政権はこの国際約束に背き、香港の自由を根こそぎ奪いつつある。

 敵対的とみなした国を制裁関税や露骨な中傷で脅し、屈服を迫る「 戦狼 せんろう 外交」は、世界中で中国のイメージを悪化させている。国民の愛国心を満足させても、中国の利益にはならないだろう。

 国際社会は、香港や新疆ウイグル自治区での弾圧を重く見て、対中圧力を強化している。これに対し、習氏は祝賀式典での演説で、「外部勢力がいじめや抑圧を行い、我々を奴隷扱いすることは決して許さない」と語った。

 列強の圧力下にあった党創設時の状況になぞらえて、強硬外交を正当化する意図かもしれないが、明らかに現実に反する主張であり、国際社会の共感は到底得られまい。

 ◆日本は粘り強い対話を

 習氏は演説で台湾の統一は「党の歴史的任務だ」と述べた。香港の「一国二制度」の形骸化と「中国化」は台湾の警戒を招き、平和統一の可能性は遠のいている。中国が武力統一に傾いているとの見方を強めさせるばかりだ。

 台湾海峡で有事が起きた場合は、日本も甚大な影響を受けることが避けられない。日米首脳会談に続き、先進7か国(G7)首脳会議の成果文書でも初めて、台湾問題が明記された。G7の結束強化は不可欠である。

 中国は海洋、サイバー、宇宙など幅広い領域で影響力拡大を図っている。菅政権は緊張感をもって、対応を急がねばならない。尖閣諸島など東シナ海の安定を守るため、不測の事態を想定した体制を整備すべきだ。

 一方で、日本にとって中国は、経済面でも東アジアの安定においても極めて重要な隣国である。対立一辺倒で自ら緊張を高めるような言動は避けるべきだろう。

 日本は米欧などと連携し、中国が法の支配、自由、人権などの普遍的価値観や国際ルールを尊重するよう、対話で粘り強く促していくことが重要だ。

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2172371 0 社説 2021/07/02 05:00:00 2021/07/02 05:01:10

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