運転士 追い詰められた末… JR脱線事故16年

運転士 追い詰められた末… JR脱線事故16年
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  「嘘は絶対つくな、再度嘘をついたら運転できないぞ」

  「はい」

 JR福知山線脱線事故のおよそ1年前。駅の停止位置を行き過ぎるミスをした運転士への「日勤教育」はこんな詰問で始まった。

 運転士はミスを知らせる一報の段階で虚偽報告をしていた。「会社の信用問題になる」「社会人として失格」。容赦ない尋問の終わり、運転士は虚偽報告をした理由を告白した。「お客さまに迷惑をかけたから、それに対してどれくらい怒られるか怖かったです」

 その翌年、平成17年4月25日午前9時15分。この運転士は伊丹駅(兵庫県伊丹市)の所定の停止位置を72メートルもオーバーランした。乗客106人が犠牲になり、自身も命を落とす脱線事故の、その3分前のことだ。

過半数が事故後入社

 「事故後に入社した社員には、『そもそも風化って何?』と思う人もいる」

 4月上旬、JR西日本の管理職約50人がテレビ会議システム「Zoom」で意見をぶつけあった。議題は脱線事故のことを若手社員にどう伝えるか-。会議では、風化させてはいけないということから始めるべきだという声もあった。

 昨年4月の時点で、事故後に入社した社員が過半数になった。社内調査では、事故の教訓を踏まえて導入された施策の目的を理解していない社員が複数いると判明した。事故の教訓は何か、どう改善されたか、JR西はいま一度冊子にまとめて明確化した。背景にあるのは対策が形骸化していく危機感だ。長谷川一明社長は冊子の冒頭で「安全の羅針盤」の継承を訴え、「今を逃すとできない」と、会社が岐路に立っているとの認識を示した。

 「事故の反省と教訓が機能しなくなるのが一つの風化だ」。約160人の運転士が所属する「天王寺電車区」の清水敏生(としお)区長(57)は会議を振り返り、こう気を引き締めた。

 運転士らにミスがあった場合、所属する運転区や電車区の区長が必要に応じて実施していた日勤教育。悪名高きこの制度は事故後に廃止されたが、そもそもの趣旨はミスをした乗務員の再教育-つまり安全構築の一環。問題は、安全管理の手段だったはずのルール(日勤教育)が、いつしか一つの懲罰として、それ自体が目的化したことだ。

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