JR九州を農場経営に駆り立てた「問題意識」 鉄道とは縁遠い農業、意外と共通点がある?

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JR九州ファーム玉名農場で栽培しているミニトマト「アンジェレ」。一般のミニトマトより糖度が高いのが特徴だ(筆者撮影)

いまや、鉄道会社が手がける事業の範囲はあまりにも広くなっている。2016年に本州旅客3社に次いで株式上場を果たしたJR九州でも、ご多分に漏れずさまざまな事業を手がけている。流通や小売り、不動産、観光などであれば、鉄道とのシナジー効果も高い。しかし、中にはおよそ鉄道とは縁遠い事業もあるのだ。そのひとつが、農業である。

JR九州の子会社、JR九州ファーム。2014年に発足したこの会社は九州内に7カ所の農場と1カ所の養鶏場を運営、卵からニラやミカン、トマト、ピーマンに至るまで、あらゆる農産物を生産している。

さらに直営の青果販売店「八百屋の九ちゃん」も展開するなど、販売までも一貫して手がけているのだ。とは言え、八百屋はともかく農場は駅の近くにあるわけでもなく、鉄道事業とはまさに縁遠い世界。いったいなぜ、JR九州は農業をやっているのだろうか。

「九州の地場企業としての責任」

JR九州ファーム代表取締役社長の田中渉氏は「九州の地場企業として、九州の基幹産業である農業に積極的に関わっていく責任がある」と話す。

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「発端は、大分県から声をかけてもらったこと。グループ会社を通じてJR九州本社の経営企画部に話が来まして、2010年の4月からスタートしました」

農業参入の背景のひとつには、今やJR九州の代名詞ともなった観光列車の存在がある。また、鉄道と農業の類似性にも目をつけたという。

「鉄道で観光をやるからには、車窓の美しい田園風景を守らなければなりません。また、農業と鉄道、実はよく似ているんですよね。どちらも安全に気をつけなければならないし、毎日毎日休みがないのも同じ。手間をかけ続けていいもの、いいサービスを作っていくのも同じです」(田中社長)

こうして2010年に大分県でのニラ栽培に参入して以降、九州各地に農場を展開して栽培品目も増やし、事業を拡大してきた。この背景には、全国的に深刻な問題となっている農業の後継者不足も関係している。

農地は一度耕作が放棄されると土地が痩せてしまい、もとに戻すためには数年かかる。そのため、耕作放棄に至らないよう世代継承をしていく必要があるのだ。

人口減少もあって単純に親から子への世代継承は現実的に立ちゆかなくなり、そうした中で2009年に農地法が改正されて民間企業の参入が容易になった。JR九州による農業事業参入もその1つというわけだ。

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