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ステージレビュー

映画以上に心に響く、3人だけで演じる「ローマの休日」

2010年5月3日

  • 文・写真:岩村美佳

写真拡大舞台版「ローマの休日」より=撮影・岩村美佳

写真拡大舞台版「ローマの休日」より=撮影・岩村美佳

写真拡大舞台版「ローマの休日」より=撮影・岩村美佳

 吉田栄作、朝海ひかる、小倉久寛3人による、ストレートプレイ「ローマの休日」が、4月27日に天王洲銀河劇場にて初日の幕を開けた。あの名作映画「ローマの休日」の舞台化である。折しも56年前の同日に映画が封切られたという。3人だけのストレートプレイ(せりふ中心の舞台)を、期待以上の作品に仕上げている。映画のよさ、イメージは残しつつ、新たな設定、エピソードを加え、新しい「ローマの休日」を作り上げた。出演者を減らすことにより、3人を深く掘り下げ、より人間らしいキャラクターになっている。

 3人とも役のイメージにぴったりで、映画よりリアルに息づいていた。吉田のジョーは時代の被害者で、世の中を斜にかまえてみているような、半ばあきらめの様子がいい。その分、アンと出会って心惹かれていく変化、最後にアンとの信頼を選ぶ姿に心打たれる。朝海のアンはまずビジュアルがぴったり。オードリー・ヘップバーンのイメージを保ちつつ、朝海自身の魅力が溢れる仕上がりだ。自分の思いを押さえながら「夢」を語る場面では、感情を抑えた表現をするときにより魅力的になる朝海自身の輝きが、上手く加わっていた。小倉のアーヴィングは緩急自由自在に舞台上を所狭しと動いていた。終始明るく軽妙な中において、アンに自分たちの過去を話す場面では、意外な一面をみせる。その真剣な面持ちが舞台ならではの場面。いいスパイスとなっている。

 今回の舞台の一番のポイントはジョー(吉田)とアーヴィング(小倉)の背景だ。映画ではジョーがなぜ新聞記者をしているのか、2人は親友だがその出会いなど、背景は描かれていない。今回の舞台ではそこを描く事により、2人がどんな思いで今の仕事をしているのか、そしてどんな世界背景の中の話なのかがわかる。そして2人の過去を知ったアン王女(朝海)も、より人間らしい感情を見せる。それぞれの思いが見えてくるだけに感情移入しやすい。

 映画「ローマの休日」の脚本家ダルトン・トランボは赤狩りの被害にあっている。その実話がジョーの背景になっている。ハリウッドのシナリオライターだったジョーは、議会でコミュニスト(共産主義者)やそれに同調するものを告発しろと言われる。そのリストの中には、映画のスチールカメラマンであったアーヴィングの名前もあった。ジョーは告発を拒み、アーヴィングと共にハリウッドを追われる事になる。そして新聞記者、報道カメラマンとなり、現在に繋がるのだ。アンはこの話をアーヴィングから聞き、心を痛め、いつか2人がハリウッドに復帰できるようにと願う。

 映画以上に心に響き、心に残った場面がある。今回の演出ならではの場面だ。ジョーの部屋に泊まった翌日、アンはお礼を言って帰って行く。その道すがら、アンは初めて目にする街の光景に興味を持ち、寄り道をしてしまう。市場によったり、ジェラートを食べたり、髪を切ったり…。この場面は、ジョーに料理を作ってお礼をしようと思い戻って来たアンが、ジョーに話して聞かせる演出になっている。どんなに素晴らしい時間だったかということを、高揚して話すアンを見ていると、なんとも切ない気持ちになる。「君の夢は何だ」と尋ねるジョーに、恥ずかしそうに答えるアン。「一度でいいからカフェテラスに座って誰かとお話したいの。行き交う車や、道行く人を眺めながら。ウインドウショッピングをしたり、雨にぬれて道を歩いたり…」。アンの瞳から大粒の涙がこぼれる。ジョーは「人間には義務と同じように権利があるんだ」と夢をかなえにアンを街に誘い出す。アンの心からの思いに、本気で答えようとするジョー。心と心がぶつかり合い、リアルな感情が溢れていた。

 映画のモノクロのイメージを踏襲し、セット、衣装はモノクロ。モノクロといっても赤みがかったアンティークな色合いだ。そこに人物の肌の色と、電球の光のオレンジ色が印象的に浮き立つ。モノクロといっても赤みが強いもの、青みが強いもの、グリーンが強いもの、それぞれ印象が異なる。今回のセットには「赤み」が効いていると感じた。「赤狩り」の時代背景、アン王女の王室のクラシカルな部分、そして古い映画のイメージなどに繋がる。舞台の半分以上の時間を過ごす「ジョーの部屋」が、モノクロなのにリアルで不思議な感覚だ。そして奥秀太郎の映像が素晴らしい。街に出た場面、祈りの壁、船上のダンスパーディー、最後の記者会見などはほとんど映像で表現している。モノクロ映画を見ているような錯覚が心地よい。奥は宝塚や様々な舞台にひっぱりだこの映像作家だが、毎回その映像なしには舞台が成立しないであろう程に印象深い。近作で言えば、「蜘蛛女のキス」「カサブランカ」「マテリアル」など。いずれもそれぞれの世界を表現する一翼を担っていた。

 初日を前に行われた3人の囲み会見で、吉田は「ずっと大好きだった映画プラス人間関係が深まっている。舞台ならではの息づかい、生の舞台の感覚を味わってほしい」と話した。朝海は初めてダンスを踊る吉田を「何をやっても素敵でさすが」と絶賛。自らについては長い「寝る」芝居に本当に寝てしまわないかと、ベスパを乗りこなすことが不安だと笑う。小倉は「元々素敵な作品。2人が素晴らしいので、自分も負けないように、かわいくキュートに頑張る。お腹のふくらみはもちろん入れてます(笑)!」と話した。

◆舞台版「ローマの休日」

《東京公演》2010年4月27日(火)〜5月9日(日)、天王洲 銀河劇場
《大阪公演》2010年5月12日(水)〜5月16日(日)、シアター・ドラマシティ
出演:吉田栄作・朝海ひかる・小倉久寛
演出:マキノノゾミ
脚本:鈴木哲也・マキノノゾミ
詳しくは梅田芸術劇場5周年記念企画「ローマの休日」ページへ

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