タンガニーカ湖の固有種に迫る危機

2011.12.01
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タンガニーカ湖を泳ぐ、海水魚に似た色鮮やかな淡水魚(撮影日不明)。

Photograph by National Geographic
 タンザニア西端に広がる淡水湖タンガニーカ。長い年月をかけて発達したこの湖は、最大深度が約1500メートルと非常に深く、クラゲなど色彩豊かな生物を育んでいる。 巻き貝、カニ、海綿動物をはじめ、タンガニーカ湖の多様性に富んだ淡水生物の多くは、同じ種類の海洋生物と驚くほど似ている。

「タンガニーカの巻き貝と海洋性巻き貝を並べてみると、ほとんど区別がつかない」とタンガニーカ湖の生物を研究するスイス、チューリッヒ大学の進化生物学者トニー・ウィルソン氏は言う。

 自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)のアフリカ・アメリカ淡水域保全アドバイザー、コリン・エイプス(Colin Apse)氏も、海洋との類似点を指摘する。「およそ300種の固有魚が生息し、その多くはサンゴ礁に群がる熱帯魚のように色鮮やかで動きが速い」。

 地球上の淡水域の約17%を占めるタンガニーカ湖。南北約650キロの湖岸に接するブルンジ、タンザニア、ザンビア、コンゴ民主共和国に住む何百万の人々に水と食料を供給している。

 しかし今その貴重なライフラインが、水質汚染、乱獲、人為的脅威のリスクにさらされているという。

◆海洋の淡水バージョン

 タンガニーカ湖は、地殻のずれによって生じた地溝湖で、水深が非常に深い。深い水深のおかげで浅い湖のように簡単に干上がらず、海洋のような豊かな生物多様性が何百万年もの間に育まれた。

「海洋とよく似た進化プロセスが長い年月をかけて進み、新種が次々と誕生した。古代生物の系統もそのまま残ったらしい」とウィルソン氏は指摘する。

◆乱獲、森林破壊などの脅威

 しかしその豊かな生物多様性は、急速に失われつつある。脅威の筆頭が乱獲だ。淡水魚が食用や観賞用として輸出され、地元経済に現金をもたらすようになった。

 小さな網で湖岸の稚魚を一斉捕獲するなど、持続可能性を無視した違法な漁法が一部で活発化している。

 また、薪の採集や農地の開墾を目的とした森林伐採も盛んだ。土地が荒れるといずれは湖に悪影響が及ぶ。

◆タンガニーカ湖の保護策

 TNCはタンガニーカ湖保護局(Lake Tanganyika Authority)の協力のもと、湖の一部を保護する包括的な計画を立案する予定だ。同局は、タンガニーカ湖に面する4カ国のメンバーで構成される政府間組織で2008年に設立された。

「湖全体を保護できれば良いのだが現実的ではない。どこよりも急激な人口増加が圧力になっている国もある」と、ブルネイから参加した同局の技術アドバイザー、サスキア・マライネッセン(Saskia Marijnissen)氏はメールでの取材に答えた。

 計画案の1つとして挙がったのが、海洋と同じように魚の繁殖に最も重要な水域を保護することである。「禁漁区を設ければ、近くの漁業区域もそのメリットの“おこぼれ”が期待できる」とTNCのエイプス氏は言う。

 またタンザニアのゴンベ国立公園など、周辺地域の保護を強化すれば、良い影響が湖にも及ぶだろう。「タンガニーカ湖はエコツーリズムで人気が出る可能性がある。4カ国にとっても魅力的なインセンティブになるだろう」とエイプス氏は付け加える。

「こんな素晴らしい観光スポットは他にないと思う。見事な森林を散策すれば、チンパンジーにも会える。水は冷たくないのでシュノーケリングもおすすめだ。海のサンゴ礁も良いけど、淡水魚の世界も格別さ」。

Photograph by National Geographic

文=Ker Than

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