「退役軍人の日」:90年の歩み

2010.11.12
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退役軍人の日にパナマシティで行われた記念式典(11月11日撮影)。パナマとアメリカの二重国籍を持つ退役軍人が多く出席した。

Photograph by Arnulfo Franco, AP
 今年も「退役軍人の日」を迎えたアメリカでは、過去および現在の軍務従事者に敬意を表して、さまざまなイベントが各地で開催されている。アメリカは11月11日を休日と定めているが、その経緯や変遷を時代と共に振り返ってみよう。 アメリカ在郷軍人会の広報責任者ジョン・ラフター氏によると、退役軍人の日はもともと「休戦記念日」と呼ばれていた。11月11日は休戦の象徴的な意味を持っているのだという。「11月11日午前11時に発効した第一次世界大戦の休戦協定に由来している」。

 アメリカで初めてこの日を休戦記念日と宣言したのは1919年、当時のウッドロウ・ウィルソン大統領だ。その20年ほど後に、連邦議会によって法定休日に定められた。そして1954年、第一次大戦の従軍兵士だけでなく、すべての退役軍人を称える日にしようという機運が国内に高まり、「退役軍人の日」に名称が変更された。

 イギリス連邦諸国など、現在でも11月11日を休戦記念日あるいは追悼記念日としている国は少なくない。この日、人々は第一次大戦の出征兵士をしのんで、赤いポピーの花を身に付ける。これは、同大戦の戦没兵士を称えた有名な詩「フランドルの野で(In Flanders Fields)」にちなんで行われる習慣である。また、午前11時には2分間の黙祷が捧げられる。

 アメリカでは、退役軍人の日を10月の第4月曜日に変更する法案が1968年に連邦議会で可決され、1971年施行された。公務員が週末の休日と合わせて三連休を取るための法案で、ワシントンの誕生日や戦没者追悼記念日、コロンブスデーも同じような措置が取られた。だが多くの州や自治体、退役軍人会などの反発が強まり、1978年までに再び11月11日が退役軍人の日となった。

 退役軍人の日は、毎年5月の最終月曜日と定められている「戦没者追悼記念日」とは別の意味を持っている。ラフター氏はこう話す。「戦没者追悼記念日は国を守るために亡くなった人々を称えるための祝日で、退役軍人の日は国のために尽くしたすべての退役軍人に敬意を表する日だ」。ちなみにラフター氏自身も、1983年から1990年までアメリカ海兵隊に所属していた。

 現在、退役軍人の日にはアメリカ各地でパレードや追悼式典が催される。また当然ながら、各地にある戦争博物館も毎年この日は大勢の人々でにぎわいを見せる。ニューオーリンズにある国立世界第二次大戦博物館では今年、「歴史との対話(Talking to History)」というイベントが開催され、小学5年生の子どもたちと第二次世界大戦の退役軍人が対話する場が設けられた。

「現在さまざまな立場にある退役軍人が経験談を披露し、子どもたちがいろいろな質問をする。中にはサインをもらっている子どももいた。本当に心温まるイベントだった」と同博物館の広報担当者ケイシー・ヒル氏は話す。

 ヒル氏は普段から、博物館を訪れる人々に退役軍人、中でも年々存命者が減ってきている第二次大戦の退役軍人と交流を持つよう勧めている。第二次大戦の出征者で2000年時点での存命者は、およそ550万人と推計されている。第一次大戦の退役軍人で今も健在なのは、唯一人だけになった。

 ヒル氏はこう語る。「この祝日にあれこれと思いを巡らす人はそれほど多くないだろう。だが、例え一人でも退役軍人に出会い感謝の気持ちを伝える体験をした人は、不思議なことにとても良い表情を浮かべる。それを見ていると、こちらの気分まで晴れやかになる」。

 アメリカ在郷軍人会のラフター氏も退役軍人の日について、「先人たちが祖国のためにどれほどの犠牲を払ってきたのか、それを若者たちに教える日だ」と語る。「歴史的な教訓や伝統を現代の子どもたちに教え聞かせれば、退役軍人あってこそのアメリカだと理解してくれるに違いない」。

Photograph by Arnulfo Franco, AP

文=Ker Than

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