「100年に1度」の巨大噴火
波立つ太平洋

提供:情報通信研究機構(NICT)

世界標準時15日午前(日本時間同日午後)、トンガ諸島の海底火山「フンガトンガ・フンガハーパイ」で大規模な噴火が発生した。噴煙は上空1万6000メートルを超えた。専門家が「100年に1度の規模」と語る大噴火の衝撃波は地球の大気を走り、太平洋を波打たせた。


海面から噴煙が姿を表したのは15日午前4時ごろ(世界標準時)で、その後2時間足らずで半径数百キロの規模まで拡大した。情報通信研究機構(NICT)と、米海洋大気局(NOAA)の静止衛星GOES-17の画像を基に作成




気圧急上昇後、潮位が不規則に

火山噴火の爆発規模を示す世界共通指標の火山爆発指数(VEI、0~8の9段階)は、上から3番目の6に相当するとの見方が出ている。VEI6は1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火以来で、噴出物の量は富士山の宝永大噴火の10倍に相当。「100年に1度の規模の噴火だ」と京都大学の大倉敬宏教授(火山物理学)は話す。

東京工業大学の野上健治教授(地球化学)は、人工衛星の画像で噴煙が水平方向よりも垂直方向に向かっていることから「大気中に圧倒的にエネルギーが出ている」と指摘する。

日本では15日午後8時前の父島を皮切りに、全国で相次いで気圧が2ヘクトパスカル程度上昇。火山噴火に伴う衝撃波が届き、瞬間的な気圧の変化をもたらした可能性があるとみられている。

鹿児島県の奄美大島では15日午後8時すぎに気圧の上昇が観測され、その後、潮位が不規則に上下していた。同様の潮位変化は小笠原諸島の父島など日本の各地で確認された。

奄美大島では16日午前0時前、岩手県の久慈港では同日午前2時半ごろに1メートルを超える「津波」を観測。火山噴火や地震に伴う津波で一般的に想定される到達時刻よりも2時間以上早かった。



気圧上昇と潮位変化はカリブ海のプエルトリコでも観測された。


「海面の波と大気が共鳴」

東京大学の前野深准教授(火山学)は「噴火による空振(くうしん)で海面の波と大気が共鳴したり、気圧が変化したりすることで波が増幅された可能性がある」と推測する。


米国・ハワイの太平洋津波警報センターなどによると、トンガで確認された津波の高さは約80センチ。海外メディアによると、首都ヌクアロファでは押し寄せた波によって住宅が浸水し、車が波に浮いているのを見た住民もいるという。

バヌアツで観測された津波は約1メートル40センチ、フランス領のニューカレドニアで約1メートル10センチ、米カリフォルニア州で約1メートル30センチ、チリでも1メートル超と、離れた場所でトンガより高い津波が観測されたケースは少なくない。

前野准教授は「今回、山体崩壊や地形変化による津波もあったかもしれないが、それだけではサイパンなどの途中の波が小さいことの説明がつかない」と指摘。「日本などで観測された津波は別のメカニズムで起きたと考えられる」と話す。

東京大学の綿田辰吾准教授(固体地球惑星物理学)によると、1883年にインドネシアのジャワ島とスマトラ島の間にあるスンダ海峡の火山島、クラカタウの噴火(VEI6)で想定津波到達時刻よりも早く津波が到達したり、大西洋沿岸の南米や欧州でも津波の報告があったという。

今回日本などで観測された津波について、綿田准教授は「大気中の圧力波が海洋域を伝播してしている間に津波が発生し、増幅されたのではないか」との見方を示す。

大噴火の前から噴煙を上げていたトンガ諸島の海底火山フンガトンガ・フンガハーパイの衛星画像(7日撮影)=Planet Labs
欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像で噴火前の3日時点のフンガトンガ・フンガハーパイ周辺の様子と比較すると、15日の大噴火後、海面上に露出していた陸地のかなりの部分が失われたとみられる

衛星画像に軽石とみられる帯

欧州宇宙機関(ESA)が公開している衛星画像では15日に噴火した海底火山付近で軽石とみられる帯が観測された。海底火山が専門のオーストラリア・タスマニア大学の池上郁彦氏は「軽石に特有の構造を示しており、トンガ沖で発生した海底火山の噴火に由来すると考えられる」と語った。

(都市問題エディター 浅沼直樹、矢野摂士、朝田賢治、並木亮、山本博文、石井理恵、淡嶋健人、森山有紗、井上容、松島春江、金谷亮介、久能 弘嗣)