写真集

『流れ雲旅』北井一夫 つげ義春と失われた風景

写真集「流れ雲旅」北井一夫著(ワイズ出版)
写真集「流れ雲旅」北井一夫著(ワイズ出版)

 1970年代の初め、写真家の北井一夫は漫画家のつげ義春らとともに、青森県の下北半島や大分県の国東半島などに撮影の旅をした。作品は当時、アサヒグラフに掲載され、『つげ義春流れ雲旅』として単行本にもなったが、今度の写真集は北井が撮ったオリジナルネガから新たにプリントした約140点が収められている。モノクロのざらついた画像には、すでに失われた日本の原風景と昭和の人々の表情が刻み込まれている。

 デザインを担当したワイズ出版の田中ひろこさんによると、東京・青山のビリケンギャラリーで8日まで開催中の写真展のために企画され、その流れで出版の話が持ち上がった。北井は印刷や紙の質にもこだわり、数年後写真が風化していったときに色合いが理想に近づくような写真集を目指して作り上げたという。

 「写真が都市を志向していた時代に、北井さんは自分が撮るべきものは村だという強い意志で行動した。すでに失われてしまった風景であり、今こそ見るべき貴重な写真」と田中さん。数カットある若きつげ義春の姿も味わい深い。(ワイズ出版・2300円+税) 藤井克郎

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