北陸中日新聞挑戦 松井秀喜検証 ヒデキイズム2004年5月27日掲載

 

 
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 日米の選手を比べて、日本の方が優れている点は? 松井は即座に「道具を大切にすること」と答えた。

 確かにメジャーの選手は、バットやグラブを単なるツール(道具)として扱う。五月十九日のエンゼルス戦。三振に倒れたAロッド(アレックス・ロドリゲス選手)は、バットとヘルメットを投げ捨て、判定への不服を態度で示した。

   道具への愛   

自分の“原点”忘れぬ

 
シーズンに使用するバットを手に、久保田五十一さん(右)と話すヤンキースの松井秀喜選手=昨年12月、岐阜県養老町のミズノテクニクスで


 「日本でもああやって不満や怒りを道具にぶつける選手がいないわけではないですけど、やっぱりこっちの選手の方が扱いは雑。道具へのこだわりも少ないですから」

 メジャーの選手は、春のキャンプで契約するメーカーの数種のモデルを試し、その中から気に入ったものをピックアップする。細かなところまでメーカーと選手が話し合い、個別モデルを作る例はほとんどない。ましてや日本のように各メーカーの社員が球場に待機、選手の注文に細かく応えることなどあり得ない。

 日本では、道具は常に体の一部と考えられる。どこまで自分にフィットしたものを作れるかも、選手の能力の一つとされる傾向が強い。松井も道具に対するこだわりは強い。プロ入りしてからほぼ毎年、バットやグラブをモデルチェンジしてきた。そのため、オフには契約する運動具メーカー「ミズノ」の工場を訪れる。そこで、バットは久保田五十一、グラブは坪田信義両名人と相談の上で、新しい松井モデルを作ってきた。

 「一本のバット、一つのグラブは、いろいろな人の苦労によって出来上がっている。去年僕が使ったバットは、久保田名人がいいメープルの原木を探しにカナダの山に登ってくれたと聞いています。そんなバットを投げつけるなんて、絶対にできないじゃないですか」松井の言葉には力がこもった。

 「子どものころ、まず教えられたのは“道具を大切にしなさい”ということだった。初めてグラブを買ってもらったときの感激は忘れられないし、そのグラブを毎日磨いて大切にしたのが、僕の野球の原点ですから」

 年俸七億円を超える選手になっても、一本のバット、一つのグラブを大切に扱う心は変わらない。

(フリージャーナリスト鷲田康)

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 【検証 ヒデキイズム】

■36. シーズンオフ 来季へ向け周到準備 (2004年11月18日)
■35. Wシリーズ 『見る』不思議な感覚 (2004年10月25日)
■34. ポスト・シーズン 好不調の波 作らず (2004年10月18日)
■33. 冷静沈着 失敗の影響最小限に (2004年10月10日)
■32. 地区優勝 雪辱へ歓喜は一瞬 (2004年10月2日)
■31.スト問題 『ファンのため』が原点 (2004年9月25日)
■30.空振り三振 思い切りこそ肝心 (2004年9月20日)
■29.無安打から脱出 実力で手にした『4番』 (2004年9月11日)
■28.ライバルの足音 優勝争い パワー源 (2004年9月4日)
■27.無安打から復活  自分自身をコーチ (2004年8月29日)
■26.4番の役割  将来へ貴重な実績 (2004年8月22日)
■25.米からエール 長嶋監督に『金』を (2004年8月14日)
■24.トレード 活躍のすぐ隣に影 (2004年8月6日)
■23.絶好調の罠 浮かれず危機脱出 (2004年8月1日)
■22.長嶋監督 電話で最高の贈り物 (2004年7月23日)
■21.オールスター 2年目楽しむ余裕 (2004年7月15日)
■20.笑み好プレー 準備に命  ひそかな自慢 (2004年7月11日)
■19.語らず…寂しい笑み  異彩の漢字看板 (2004年7月2日)
■18.アーチ量産  不本意な1発必要 (2004年6月27日)
■17.結婚観  にじむ『気の優しさ』 (2004年6月17日)
■16.球宴  名実ともにふさわしく (2004年6月11日)
■15.テレビ  新たな“武器”届く (2004年6月3日)
■14.道具への愛  自分の“原点”忘れぬ (2004年5月27日)
■13.食生活  白いご飯は譲れない (2004年5月21日)
■12.2年目の遠征  苦い経験はね返す (2004年5月14日)
■11.大台3割到達  “無意識打法”の成果 (2004年5月7日)
■10.チームVへ  振りも鋭く 孤軍奮闘 (2004年4月30日)
■9.伝統  球場、チームにこだわり (2004年4月22日)
■8.ミス続き  『あの言葉』 かみしめ (2004年4月15日)
■6.凱旋アーチ  『いつも同じ』に強み (2004年4月2日)
■7.新打法  手応え…余裕生む (2004年4月8日)
■5.記憶力  データ蓄積 球種読む (2004年3月26日)
■4.トーリ監督  信頼の視線 心の支え (2004年3月20日)
■3.『監督』入院   祈る。ただ寡黙に (2004年3月12日)
■2.体の左側で打つ  ボンズへ“挑戦状”(2004年3月4日)
■1.A・ロッド加入  狂想曲では躍らない(2004年2月26日)

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