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富士山 “弾丸登山”に危機感 今夏の登山者急増見込みで

  • 2023年6月30日

本格的な夏山シーズンを迎える富士山。
登山者全体の7割が、山梨県側から山頂を目指すとも言われるが、ことしは新型コロナの制限緩和による登山者の増加で、コロナ禍前の20万人を超えることも予想されている。
そんな中、関係者が危機感を募らせているのが、山小屋での休憩をはさまず、一気に山頂を目指す“弾丸登山”の増加だ。むちゃな登山をなくそうと取り組む、地元の動きを取材した。
(甲府放送局 富士吉田支局/記者 宇佐美貫太・甲府放送局/記者 立町千明)

登山者増加の兆し?山小屋に予約殺到

準備する山小屋

富士山の山梨県側、吉田口登山道の7合目にある山小屋。7月1日の山開きを前に、登山者を受け入れる準備が始まった。
山梨県側の山小屋では、2021年以降、感染対策として宿泊者の定員を半分にして営業してきたが、新型コロナが5類に移行して初めての夏山シーズンとなることしは、7割ほどにまで増やすことにしている。

こうした中、5月になって多くの山小屋が宿泊の受付を始めると、予約が殺到。取材した7合目の小屋でも、週末はすでに空きがない状態だという。

日の出館 中村修オーナー
「予約の電話が鳴りっぱなしだが、すでにいっぱいで受け入れることができない。こんな状況は久しぶりじゃないのかな」

登山者急増で懸念される“弾丸登山”

地元の関係者たちは、コロナ禍前の20万人を超える登山者が訪れると予想する。
そして山小屋で宿泊できる人数が限られる中、登山者の急増で懸念されるのが“弾丸登山”の増加だ。山小屋で休むことができず、一気に山頂を目指すため、高山病や低体温症になる可能性が高まるうえ、疲労の蓄積からけがをする危険性もある。

こうした状況に、地元の自治体や観光関係者は強い危機感を抱いて、山梨県に“弾丸登山”を抑制するための対策を要望。夜間の入山者数が一定数を超えた場合などに一時的に規制してほしいと訴えた。

富士吉田市 堀内茂市長
「世界文化遺産に登録されて10年ということもあり、観光客や登山客が国内外から大勢押し寄せる状況が見えている。過去、弾丸登山が多かったときに、高山病や低体温症になって、医療センターへ運び込まれる方が続出することもあった」

“弾丸登山”への対応 地元や県は

これに対し山梨県は、“弾丸登山”をできるだけ抑制していきたいとしながらも、登山道を規制するためには法律的に制約があると慎重な姿勢。できる範囲で対策に取り組むとした。
そして県は、ご来光を目的に多くの人が夜から登り始めることから、ことしは夜間を中心に、富士山のふもとから5合目までを結ぶ県の有料道路「富士スバルライン」を通行できないようにすることや週末に巡回指導員を増やすことを決めた。

さらに地元や県は、急病人やけが人に対応するため、富士山に設けている救護所の開設期間を、これまでは8月下旬ごろまでとしていたが、夏山シーズン最終日の9月10日まで2週間ほど延長することを初めて決めた。

富士山登山 “特殊な環境と自覚を”

富士山8合目の救護所で20年近く診察してきた医師も、ことしは“弾丸登山”で受診者が増えることを懸念している。

山梨大学医学部附属病院 板倉淳 臨床教育部長
「装備も不十分だったり、事前の体調管理も不十分だったり、弾丸登山によって引き起こされた高山病で救護所に来る人が多かった。当然、ことしは登山者が増えれば傷病者数も増えてくると考えていて、かなりの数が来るだろうと思っている」

医師は、富士山を安全に登るためには、余裕を持った計画を立てることや、衣服や靴などの装備の確認、そして体力づくりといった準備が必要だと指摘する。

「富士山は3000m級の山で、山頂に行けば行くほど天候や気温も変わりやすいという特殊な環境だ。体の不調が発生した場合に大きな事故になる可能性がある。そういう山だということを皆さんに自覚していただければと思う」

関係者たちは、訪れる人ひとりひとりが、準備や注意を怠れば身の危険につながることを忘れることなく、富士山の登山を楽しんでもらい、無事に夏山シーズンを終えられることを願っている。

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