注目の歴史的対決で表面化 競馬三冠路線の問題点
空前の注目を集めた11月29日の第40回ジャパンカップ(東京、GⅠ・芝2400㍍)は、このレース限りの引退が決まっていたアーモンドアイ(牝5)が、国内外GⅠ・9勝目をあげて花道を飾り、2着にコントレイル、3着にデアリングタクトと、今年の牡牝の3歳三冠を無敗で制した2頭が続いた。
アーモンドアイは2018年に牝馬三冠を制しており、史上初の三冠馬3頭の対決となった今回の一戦は、3歳三冠路線が抱える問題も表面化させた。牝馬にあっては、三冠路線がスターの登竜門として機能している一方、牡馬三冠は競走体系全体とのずれが深刻化し、三冠路線から古馬主流路線への連結が目詰まりを起こしている。10月後半に、3000㍍の3歳限定GⅠ・菊花賞を置くことの負担が大きすぎるのだ。
歴代賞金ランク、上位10頭中5頭が牝馬
アーモンドアイは今回の勝利で、海外分を含めた通算獲得賞金が19億1526万3900円となり、キタサンブラックを抜いて歴代首位に立った。ランキング上位10頭中、半数の5頭が牝馬で、牡馬混合のGⅠで複数の勝利をあげたという共通点がある。アーモンドアイは9つのGⅠ勝利のうち5勝、4位のジェンティルドンナは7勝中4勝が牡馬混合だった。9位ウオッカは、牝馬限定戦が7勝中2つだけ。昨年の年度代表馬リスグラシューは、GⅠ初勝利だった18年のエリザベス女王杯のみである。
5頭中、3歳時に牝馬限定タイトルを取っていないのはウオッカとリスグラシューだが、ウオッカは07年の日本ダービー馬で、前後の桜花賞、秋華賞は2、3着。リスグラシューも17年の牝馬三冠路線で2、5、2着に入った。「牝馬の時代」といわれる近年の傾向を象徴する活躍馬は、牝馬三冠路線をステップに台頭したのだ。
三冠を制覇したジェンティルドンナ、アーモンドアイは、直後にジャパンカップも勝った。3歳牝馬は斤量53㌔で出走できる利点があり、ジェンティルドンナは1歳上の三冠馬オルフェーヴル(57㌔)に競り勝った。アーモンドアイも18年に2分20秒6の驚異的レコードで優勝。秋華賞は2000㍍戦で、ジャパンカップとの間隔も6週あるため、GⅠでありながらジャパンカップ前哨戦の色彩を帯びてきた。アーモンドアイの陣営は当初からジャパンカップを大目標に据え、秋華賞は通過点と見て、余裕を残した仕上げで臨んだ。
今年のデアリングタクトも、オークスから秋華賞に直行。当日は体重14㌔増で勝つと、陣営はいち早くジャパンカップ参戦を表明。年長馬を相手に、コントレイルと首差の3着に食い下がった。牝馬三冠がジャパンカップ、有馬記念と続く主流路線とスムーズに連結していることがわかる。
一流馬の出走の流れ、菊花賞が寸断
今回のジャパンカップが「世紀の対決」となるには、牡馬三冠のコントレイルの参戦が不可欠だったが、陣営には極めて難しい判断であったはず。今年40回目の同レースで、同年の菊花賞馬が勝った例はない。1984年に史上初の無敗で3歳三冠を制したシンボリルドルフは、2週の間隔で臨んだが、本調子を欠いて3着と初黒星を喫した。
後に、ジャパンカップ参戦を促す意味から、菊花賞は2000年から現在の時期に前倒しされたが、同年の菊花賞出走組のジャパンカップ制覇は01年のジャングルポケット(菊花賞4着)、10年のローズキングダム(同2着=ブエナビスタの降着による繰り上がり)の2件だけ。両レースの間隔は5週で秋華賞より1週短く、距離も3000㍍と長い分、負担が大きいのは確かだ。
しかも、コントレイルの場合、明らかな適性のずれもあった。ディープインパクト産駒だが、母系は短距離寄り。異父兄バーンフライ(牡5)は、菊花賞の次のレース、ダート1400㍍戦(3勝クラス)に出走して4着に入っていた。コントレイルは菊花賞では荒れた馬場に苦しみ、道中は折り合いも欠くなど苦戦。クリストフ・ルメール騎手が乗った2着アリストテレスを、首差で辛くも振り切った。矢作芳人調教師がレース直後、予定していたジャパンカップ参戦に慎重姿勢を示したのも無理からぬ流れだった。
結局、ジャパンカップは後方から追い込んで2着に入ったが、アーモンドアイ、デアリングタクトより後方で運んだのは、菊花賞で折り合いを欠いたため、福永祐一騎手が大事に乗った表れだった。日本の競走馬で「3000㍍級向き」の馬は皆無に等しい。勝った馬も適性を能力でカバーしているのが実態。身体的な負荷に加えて、その後のレースの戦法にも影響するのでは、馬主や厩舎側も参戦をためらう。
07年以降の14回の菊花賞で、日本ダービー馬の出走は3回で、2回は三冠のかかったオルフェーヴルとコントレイルだった。故障や引退の例も多いが、天皇賞・秋や凱旋門賞に向かった例もある。こうした馬は例外なく皐月賞は負けるか、出走もしていなかった。
牡馬には二律背反となる菊花賞
米国の3歳三冠路線も、初戦のケンタッキーダービー(KYD)と、残る2戦の地位は段違いだ。特に、最終戦のベルモントステークスは距離約2400㍍で、米国調教馬のほとんどが生涯走ることがないため、KYD勝ち馬も、次のプリークネスステークスで負けると休養に入る。
菊花賞と似た立ち位置で、二冠馬が出ると、急に注目を集める点も同じ。ただ、米国は6月前半で三冠路線が終わるため、3歳勢も下半期はブリーダーズカップ・クラシックを軸とした主流路線に合流する。日本は菊花賞とジャパンカップや有馬記念の間隔が短いため、菊花賞組の多くは有馬記念に進むか休養に入る。今年の2着馬アリストテレスも、年明けのGⅡで復帰予定だ。
菊花賞の空洞化は進むが、「三冠」という仕掛けの威力は健在だ。二冠馬が出ると、陣営は「三冠を目指すべし」との圧力にさらされ、適性外の菊花賞に向かうことが多くなる。今回のジャパンカップは三冠馬集結で盛り上がったが、牡馬に関しては、菊花賞参戦が次の進路を制約し、「集まる」こと自体を難しくする二律背反の構造にある。近年の牡馬のスター不在は、競走体系と無関係なのか? 今回の盛況と別に、秋に3歳限定の3000㍍のGⅠを置く問題点を、再考する必要がある。
(野元賢一)