耳に残るBGM、ジャングルのような商品陳列、派手なPOP……ドン・キホーテのトレードマークであるこの3つを考案したのは、アルバイトで株式会社ドン・キホーテに入社し、やがて幹部として20年間にわたって活躍した田中マイミさんです。
実は田中さんは、プロのボーカリスト。19歳でメジャーデビューした後、シンガーソングライターとして活動し、ドン・キホーテで流れるオリジナルソングの作詞・作曲・歌唱も手掛けました。
なぜ、プロのミュージシャンである田中さんが、ビジネスで成果を上げ、幹部として活躍するまでになったのか――そのカギは「仕事を楽しむこと」にありました。
現在は株式会社フューチャービジョン・ラボ 代表取締役としてエグゼクティブコーチ・経営コンサルタントを務める田中さんに、仕事を楽しむ方法をうかがいました。聞き手は、株式会社フライヤーの執行役員で、プロモーションマネージャーを務める井手琢人です。
今日は、ドン・キホーテ(以下、ドンキ)で20年以上幹部として活躍し、店内で流れているオリジナルソング「ミラクルショッピング」の作詞・作曲・歌唱を担当した田中マイミさんにお話をうかがいます。
19歳でプロのボーカリストとしたマイミさんがアルバイト先として選んだのが、自宅近くにあったドンキ。あくまで生活のためのアルバイトで、「ラクそうだから」と選んだ仕事だったのに、積極的に業務に取り組むうちにどんどん楽しくなっていった……とご著書『楽しくなければ成果は出ない』(すばる舎)で読みました。
ラクな仕事ならずっとそれに甘んじていればいいのに、自ら仕事にコミットしていった理由はなんだったのでしょうか。
田中マイミさん(以下、田中):確かに当時の私は、音楽のことしか頭になく、ラクな仕事をしたいと思っていました。でも、毎日同じ作業ばかりでは飽きてしまいます。私は楽しくないと嫌な性格なので、「どれくらいの値入率だと利益が上がるんだろう」「どうすれば商談力を磨けるのか」と常に考えていたんですね。
すると利益が増えていき、「才能あるんじゃない!?」と自画自賛しているうちに、仕事が楽しくなっていきました。
アルバイトって、どれだけ結果を出しても時給はさほど上がりませんよね。それでもモチベーションが続いたのは、本当にすばらしいことだと思います。
田中:時給については、「まあ、こんなもんだろう」と思っていたんですよ(笑)。それよりも、つまらないのが何より嫌だったんですね。実際、それまで音楽しかやってこなかったから、仕事から学べることが多くて楽しかったんです。
井手:アルバイトで入社したのに、わずか2年でマネージャーに昇格。その後、新店舗立ち上げ、マーチャンダイジング、商品本部の組織作りも行って営業部長に昇格し、延べ1万人の人財育成を行いながら、20年以上幹部として活躍されたマイミさん。
今やドンキの定番となっているジャングルのようなディスプレイや派手なPOPも、マイミさんのアイデアだとか。音楽からビジネスへと軸足がシフトしたのは、いつ頃のことでしたか?
田中:正社員になった頃でしょうか。でも本当は「会社員には一生ならない」と決めていたんです。でもあまりにもお願いされるから、「これも運命かもしれない」と引き受けることに。
そして「引き受けた以上は、いただいているお給料以上の結果を出す」という気持ちで取り組んでいました。何もかも新鮮で、勉強して結果が出ると楽しい。その楽しさにハマって、「音楽はいったん横に置いておこう」と決めました。
ご著書のタイトルは『楽しくなければ成果は出ない』。マイミさん自身、仕事を楽しんでいるうちに成果が上がって、それが楽しくてまた成果が出る……という働き方をされてきました。
一方で、仕事をまったく楽しめない人も多いでしょう。そんな人には、どのようなアドバイスを贈りますか。
田中:私だって、もともと小売にはまったく興味がありませんでした。でも、それを楽しめるかどうかは自分次第なんですよね。
私の場合、「嫌なことをやり切った先には必ず楽しいことが待っている」と考えれば、嫌な仕事にも取り組むことができました。嫌なことにフォーカスするのではなくて、嫌なことは単なる通過点でしかないと考えるんです。
井手:「どうなりたいか」を見据えて、一つひとつの敵を倒していくということですね。
田中:その通り。また、自分と仕事を細分化してみるのもいいですよ。強みや弱みなど、自分と仕事のキーワードを全部書き出して、キーワード同士をかけ合わせて何か生まれないかと考えてみる。
つまり、仕事だけを見るのではなくて、「自分はこういう人間。仕事はこういうもの。この2つをどうにかつなげられないか?」と考えてみてほしいんです。その作業をすると、どの仕事にも、必ず自分の強みを生かせるところがあるはずです。
井手:自分と仕事をつなげるポイントを探すんですね。そうすると、「自分に向かない仕事はない」という結論になるかもしれません。
田中:そうそう。やってみないとわからないこともありますしね。挑戦する前に扉を閉めてしまうと、自分の幅も、できる仕事の範囲も狭めてしまうことになりますよ。
会社や仕事の愚痴を言う前に、まずは仕事や会社を細分化してみてください。そこに自分の“適職”となる部や課はないか、ぴったりの上司はいないか、探してみましょう。そこまでやってダメなら、転職を考えたらいいんですよ。
井手:ご著書を読んで「ネガティブは暇だから生まれる」という言葉がグサッときました。
田中:自分に集中していたら、ネガティブなことなんて言ってられないはず。誰かとのアポイントだけでなく、自分とのアポイントでスケジュール帳を埋めてしまえばいいんです。
井手:コロナ禍で転職への関心が高まっていると聞きますが、まずは自分の足元を見つめ直すことも大事なんじゃないかなと気づかされました。マイミさん、お話ありがとうございました!
田中マイミ(たなか まいみ)
エグゼクティブコーチ・経営コンサルタント
株式会社フューチャービジョン・ラボ代表取締役
京都市出身。3歳の頃からピアノを習い始め、音楽と歌が大好きな幼少期を送る。高校在学中に、大阪で行われた第1回ヤマハシンガーオーディションにて延べ700名の中から優勝。高校卒業後、上京し、ヤマハネム音楽院に入学後、19歳でボーカリストとしてメジャーデビューした後、シンガーソングライターとして活動し、全3枚のシングルを出す。
そのほか、バックコーラスでは、谷村新司、森山良子、鈴木聖美など。作曲家として、ビートたけし、稲垣潤一、川島なお美、ピンク・レディー増田惠子、他多数。現在も楽曲は制作中。生活の安定のために音楽との両立でアルバイトを始めたのがドン・キホーテの1号店。販促スキルが創業社長の目にとまり、正社員のオファーを受け1995年7月に入社。担当部署に配属されると、オンリーワンのお店作りを発案。ド派手なPOPと販促ディスプレイを行った結果、既存店の数値改善や人財育成が評価され、2年でマネージャーに昇格。創業社長から店内ソングの依頼があり、「ミラクルショッピング」の作詞作曲歌も担当。その後、新店舗立ち上げ、マーチャンダイジング、商品本部の組織作りも行い、営業部長に昇格。当時年間800億の売上部署で延べ1万人の人財育成を行いながら、実質的NO.3で20年以上幹部として活躍。心理学やNLPを学び、本格的なプロコーチの資格を取得。その後、子会社の代表取締役社長を経験したのち起業。株式会社フューチャービジョン・ラボを設立し、コーチング技術を使った企業へのコンサルティング、エグゼクティブコーチ、企業研修やセミナー、講演会などを行っている。