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<ユースク>地下鉄改札外通路 通るのは左? 右? 新人記者が足で取材

2021年9月27日 05時00分 (9月27日 10時46分更新)

 地下鉄通路の通行区分のプレートを巡る事件の記事を見て、不思議に思いました。以前、地下鉄で通勤していた時は、利用駅では確か左側通行でした。しかし、たまに他の駅を使うと、右側通行の場合があり、なぜだろうと思ったものです。理由を調べてください。=愛知県一宮市、嘱託職員小森照夫さん(68)

 名古屋市内での移動に便利な地下鉄について、ユースク取材班に調査依頼がありました。日頃よく利用している方でも、駅の通路のどちら側を歩くべきか、今まで意識したことがあるでしょうか。今年春に入社した新人記者2人が、文字通り足を使って取材しました。(鍵谷朱里、鈴木沙弥)

黒田笑加管区駅長(左)に駅通路の通行区分について取材する2人の新人記者=名古屋市昭和区の市営地下鉄御器所駅で

 小森さんが取材班に調査を依頼するきっかけになったのは、7月6日付中日新聞朝刊で愛知県内の各地域版に掲載された「よもやま事件帖(ちょう)」の記事だった。
 見出しは「なんで左側じゃないんだ」。内容を要約すると、名古屋市昭和区の地下鉄御器所駅で、酒に酔った中年男が構内に張ってある「右側通行」の表示プレートをはがそうとしていたという。注意した駅員に男は「なんで左側じゃないんだ」。駅員に暴行を加え、警察官に公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された。
 記事は「なぜ左側通行がよかったのかは謎のままだ」と結んでいる。暴力はあってはならないが、男の主張の理由も知りたくなる。
 投稿を受けて、ユースク取材班が、まず名古屋市交通局に、地下鉄の各駅で改札の外にある通路の通行区分を問い合わせたところ、「各駅に委ねられていて全ては把握していない」との回答だった。では、自分たちで確かめるしかない。地下鉄の各駅ではどちら側を歩くことになっているのか調べてみることにした。

ケース<1>名古屋、栄 幅に余裕、滞留起きず→指定なし

 最初に向かったのは名古屋の玄関口である名古屋駅だ。1日当たり最多の20万人近い乗客(2019年度)が利用する。確認して回ると、改札内ではどちらを歩くべきか通行区分の指定があった。だが、改札の外の通路などでは表示が見当たらない。利用客数が2番目の栄駅も同様だ。
 栄管区駅長の半田匠さんは「混雑するホーム部分は、通行区分の表示をしている。一方で改札の外の通路は幅に余裕があり、滞留が発生していないので区分は決めていない」と話す。
 改札の外の通路について、他の駅はどう対応しているのだろう。

ケース<2>今池 エスカレーターに合わせて設定

 そんな疑問が膨らんだとき、今池駅で見つけたのが「左側通行」のプレートだった。構内を歩くと、ほとんどの出口が左側通行なのに、9番出口は右側通行になっていた。向かい側の8番出口は左側なのになぜ?
 今池管区駅長の西川あつしさんに疑問をぶつけると「エスカレーターに合わせている」という。同駅では上りエスカレーターが9番出口は右側、8番出口は左側に設けられている。エスカレーターに近い側に同じ人の流れをつくるため右側通行と左側通行の違いが生まれるという。西川さんは「利用者の動線が自然になるような通行を、お願いしている」と語る。

ケース<3>御器所 中学・高校がある右側に切り替え

 続いて向かったのは、調査のきっかけとなる事件が起きた御器所駅。こちらは八つある出口のうち1番出口は左側通行、2番出口は右側通行だった。他は表示がない。記事中の男がはがそうとしたのは、この2番出口のプレートだった。
 実は2番出口はもともと左側通行だったが、今年4月から右側通行に切り替えていた。2番出口から右に出ると、名古屋国際中学・高校があり、朝夕の始業と終業時間帯は利用が一気に増える。利用者から「学生を右側に誘導した方がスムーズになる」と複数の要望があり、駅で検討し通行区分を切り替えたという。
 御器所駅を管轄する桜本町管区駅長の黒田笑加さんは「切り替えた4月は駅員が出入り口で誘導した。事件後は張り紙の枚数を増やし、より分かりやすい案内を心がけている」と話す。

スムーズな人の流れを考慮

 新人記者2人が地下鉄を乗り継ぎ、全87駅の通行区分のプレートなどから調べた結果を図にまとめた。
 通行区分を決めているケースとしては、出口が通路と比べて狭い場合に(1)出口付近にある利用者が多い施設の方向(2)エレベーターや券売機など駅設備の位置−などの要素を総合的に考え、人の流れをスムーズにするよう決められているようだ。
 また、そうした傾向を考慮しても多いと感じたのが、一部の出口付近を左側通行とするケースだ。ニッセイ基礎研究所の研究理事中村亮一さんに尋ねてみると、車が普及する前、人は左側通行が一般的だったという。「心臓が左にあり、本能的に左側の接触を避けるため」とも言われている。中村さんは「車の走らない駅構内では歩行者の左側通行が認められた」とみる。
 市交通局によると、通行区分は「あくまでも任意の協力のお願い」という。その設定や変更には、周辺の施設の位置や利用者の要望が反映されることがあるのだと分かった。市民の日常生活と地下鉄の強いつながりが、改めて感じられた。
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 今回、紹介した内容は27日午後4時49分から放送の東海テレビ「ニュースOne」でも報道されます。番組を視聴できない地域の皆さんは同日午後8時以降、番組ホームページの特設コーナーで関連動画をご覧いただけます。


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