浅海養殖生産性の生物学的研究(3)

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抄録

アサリの成長が棲息地の底質に直接影響されるか否かを明らかにすることは,適地調査の上に重要であると同時に,仮に底質をはなれて成育するものとすれば,底質直上の各種調査が極めて困難な現在,アサリの成長に及ぼす環境要因の研究にも多くの便宜を提供するであろう。吾々は今回アサリを水中に懸垂し,所謂底質の影響を取り除き,水中の懸濁物のみにより普通干潟に棲息しているものと同様に成育するか否かを試験した。試験は1953年9月25日から10月20日迄の25日間で,その間,水温,塩分,浮泥量等について調査し,アサリについては,外部形態の成長,重量等を生のもの及び乾物について吟味したと同時に,窒素量,Glycogenの測定を行い,他の研究者の報告と対比することに依り,水中懸垂飼育の際の代謝について若干の考察を行った。その結果は大略次の通りである。試験期間中の海水塩分はclで17‰前後を示し,アサリの棲息に対して不適とは考えられなかった。水温は表層と中下層で若干(2~3℃)の差を示したが,外部形態の成長等から考えて大した影響はなかった。飼育中に見られたフジツボの附着については,なほ今後の問題であるが,附着がアサリの飼育密度に可成りの関係をもつことは興味ある所であろう。アサリの飼育密度と成長との関係は大抵逆の関係が見られたが,飼育密度を小さくすれば,懸垂飼育でもアサリは可成りの成長を示し,底土は必ずしも不可欠なものではなく,今回餌料量の指標として実施した試験管による浮泥量の測定は必ずしも成功とは考えられないにしても,餌料の多少がより本質的なものと考えられた。貝殻の増重には飼育密度は余り関係なく,成長の点を考えあわせると,貝殻形式は飼育密度に関係せず,唯々密度が小さいものは殻巾が比較的大きかった。これ等の点からすれば貝殻形成に必要と考えられる海水中の塩類は可成豊富なものと考えてよいのではないだろうか,これに反し肉質部の増加は密度により影響される傾向があり,この点肉質部の形成に役立つ餌料量は,貝殻形成に役立つ塩類ほど豊富ではなく,この点が生産の限界を現定するのではなかろうか。従って今後貝類生産の研究には有効餌料量の調査研究が必要であり,かりに干潟に棲息しているアサリ,ハマグリについても,従来の如く干出時の調査に終始せず,冠水時の問題解決が,これ等貝類の生産を向上せしめる上により重要なことであろう。水中懸垂飼育のアサリが正常な代謝を営むか否かを決定するためには,呼吸量をその他室内実験で使用される方法はほとんど使用出来ないので,肉質部の窒素量,Glycegen量の変化を測定して,従来の資料と対比し,大略の推定を行った。その結果,代謝に異状があったとは考えられなかった。

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