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極上の大人の恋物語
評・南沢奈央(女優)
無くなるのが惜しくて、口の中で少しずつ少しずつ溶かして味わいたくなるような、上質なチョコレートのような小説だった。まさに今日、バレンタインデーに紹介するのにぴったりな、大人の恋物語である。
舞台はパリの街。主人公は、お気に入りのハンドバッグを引ったくられてしまった
バッグの中に見つけた、赤いモレスキンの手帳と一冊の本を開いたことによって、ローランはロールの内面へ、より深く踏み込んでいくことになる。手帳に
モディアノをはじめ、さまざまな作家の作品が登場し、本の中に本の良い香りが漂う空気感は、読書好きにはたまらない。アントニオ・タブッキの『可能性のノスタルジー』から気づく、「人は大事な何かの側を通り過ぎてしまう」ことというのは、ある意味教訓でもある。さまざまな人の人生は並行して進んでいて、交わるかどうかは発見と行動次第。本来交わることのなかった二人が巡り合う奇跡のようなラストが、最高にロマンチックで素敵。極上の大人の甘さを味わえる。このラストだけでも読む価値あり。吉田洋之訳。