産経新聞の連載小説『アキとカズ』の舞台となっている「樺太裁判」(サハリン残留韓国・朝鮮人帰還請求訴訟、昭和50年、東京地裁に提訴)ほど、欺瞞(ぎまん)に満ち、「日本をおとしめる意図」を持って行われた裁判はない。
原告は樺太に取り残された朝鮮人たちだが、おぜん立てしたのは、「戦後責任」「戦後補償」なる概念を持ち出し、日本政府を激しく非難した日本人の弁護士や大学教授らである。後に慰安婦問題や徴用工への補償問題などをあおり、原告になる人間をわざわざ見つけ出し、世界中に火をつけて回った人だ。
樺太裁判で彼らは、戦争中、日本統治下の朝鮮から樺太へ強制連行され、苛酷な環境で重労働を科された上、終戦後は日本人だけがさっさと引き揚げ、約4万3000人もの朝鮮人だけが置き去りにされたと主張した(もちろん事実ではない!)。
そして同57年秋、原告側が切り札的な証人として、法廷に送り込んだのが吉田清治氏なのである。
彼は樺太裁判で衝撃的な証言をした。「殴りつけ」「銃剣で脅し」「根こそぎ」「無理やりトラックに押し込んだ」。さらに、樺太問題とは何の関係もないのに、済州島で若い女を無理やり連行して、日本軍の慰安婦にした、などと証言したのである。
それは、あまりにおぞましく、日本軍の残虐ぶり、非道ぶりをアピールするのに十分であった。
「船に乗せるまでの間、毎日連れてきた女を(兵隊の)慰安婦として相手させた」「(海女たちが仕事中)船で襲いかかって無理やり乗せた」「慰安婦として連日兵隊の相手をさせられてあほうになった」(後に、『作り話』だと判明するのは周知の通り)。
この証言に一部メディアや革新政党らは色めき立つ。やがて一連の「戦後補償」問題は政治問題、外交問題化し、日本人の名誉はどん底までおとしめられ、「理由なき支援」を強いられることになるのだ。