選択的夫婦別姓の導入論議が大きく後退しそうだ。政府が策定する第5次男女共同参画基本計画での言及が、トーンダウンする見通しとなったためだ。
橋本聖子男女共同参画担当相は、前向きな内容を盛り込む考えを示していた。社会の機運も高まっていた。
原因は自民党にある。
内閣府の当初案は、姓を改めさせられることの不都合や、同姓を義務づけるのは日本しかないことを記述していた。国会の速やかな議論を強く期待し、政府も「必要な対応を進める」と結んでいた。
ところが自民党の保守派は、伝統的な家族観を重視する立場から「世論の誘導だ」と強硬に反発した。具体的な記載は削られ、結論も「更なる検討を進める」に押し戻された。
第4次の計画まではあった「選択的夫婦別氏制度」の言葉すら消える一方で、「同氏制度の歴史」など、保守派に配慮する記載が加えられた。理解に苦しむ。
夫婦の96%が夫の姓を選んでいる。姓が変わることで、女性の仕事や暮らしに支障が生じている。通称として結婚前の姓を使える場面は増えてきたが、限界がある。
計画策定にあたって、選択的夫婦別姓の導入を求める意見が400件以上寄せられた。「事実婚を選ばざるを得なかった」「実家の姓が絶える心配から結婚に踏み切れない」との切実な声もあった。
市民団体などが10月、全国の60歳未満の成人7000人に行った調査では、賛成が7割に上った。
法務省が選択的夫婦別姓を導入する法案を準備してから、既に24年が経過した。与党でも公明党は賛成している。自民党は社会の現実を直視すべきだ。
自民党内でも、若手議員らが政府と党に要望書を出すなど、導入を求める動きが広がりつつある。
党内の議論を止めてはならない。そもそも姓をどうするかは個人の生き方に関わることだ。合意を得るのが難しければ、議員個人の判断に委ねるのも一案だろう。
菅義偉首相は国会で、過去に推進の立場で活動したことを指摘され、「政治家として、申し上げてきたことには責任がある」と述べた。そうであれば、リーダーシップを発揮すべきだ。