日本・千島海溝の巨大地震「切迫」 6千年の痕跡調査
北海道から東北の太平洋沖の日本海溝・千島海溝沿いでマグニチュード(M)9クラスの巨大地震が起きた場合、最大で30メートル弱の津波が到来するとの想定を21日、内閣府の有識者検討会が公表した。最悪を想定し、東日本大震災後に整備した防潮堤が全て破壊される前提で推計した。検討会は最大クラスの津波について「発生が切迫している」としており、自治体は住民の避難を軸とした対策強化を求められそうだ。
政府は2006年、同震源域で起こる地震の最大規模をM8.6、死者約2700人とする被害想定を公表した。大震災の教訓を踏まえ、検討会は15年から、過去6千年間に起きた津波による堆積物を分析するなどの手法で、津波の高さや浸水予測の見直しを進めてきた。
分析の結果、北海道から岩手県にかけては12~13世紀と17世紀にそれぞれ最大規模の津波が起きたとみられると指摘。発生確率を求めるのは困難としながらも、間隔が300~400年なので「17世紀の津波からの経過時間を考えると、最大クラスの津波の発生が切迫している状況にあると考えられる」とした。
具体的な地震の最大規模は、日本海溝の三陸・日高沖でM9.1、千島海溝の十勝・根室沖でM9.3と推定。北海道厚岸町と浜中町で震度7、釧路市や青森県八戸市などで震度6強の揺れに見舞われるとしている。
最大時の津波の高さは岩手県宮古市が29.7メートルで最も高く、北海道えりも町で27.9メートル、青森県八戸市で26.1メートルと予測した。宮城県気仙沼市は15.3メートル、福島県南相馬市は19.0メートルだが、宮城県より南は大震災の津波より低い場所が多い。
東京電力福島第1原子力発電所が立地する福島県双葉町では最大13.7メートルの津波が到達するとしたが、具体的な浸水予測のデータは示さなかった。
津波の到達時刻は、青森県東通村で地震発生の19分後に9.8メートルの津波が到達するとした。宮城県内の想定には大震災前の地形データなどが用いられているため「現状とは必ずしも一致しない可能性がある」としている。
政府は今回報告された地震・津波の予測を踏まえ、中央防災会議に河田恵昭・関西大社会安全研究センター長を主査とする作業部会を設置。20年度中をメドに、人的、経済的被害など具体的な被害想定や住民の避難を軸とした被害軽減のための防災対策を取りまとめる。
■33自治体で庁舎浸水の恐れ
日本海溝・千島海溝沿いを震源とした地震の想定では津波による浸水域も示され、少なくとも4道県の33自治体庁舎で浸水の恐れがあるとした。10メートル以上水につかるとされた庁舎もあった。災害時の司令塔となる役場機能がまひすれば、初期対応などに支障を来す可能性がある。
想定によると、最大規模の地震が発生した場合、北海道24、青森県5、宮城3、茨城1の計33自治体の庁舎が浸水する恐れがある。うち12カ所は5メートル以上の浸水とした。岩手県分は公表していない。
最も浸水被害が大きいのは北海道様似町。町役場は地震発生の26分後に地上から1メートルの高さまで水につかり、1時間8分後に3メートル、その2分後には10.6メートルまで水かさが増すと予測される。
8メートル以上の浸水とされた北海道厚岸町の担当者は「役場が全く使えなくなることも考えなくては」と身構える。海岸近くの低地にあり、津波警報発表時は約200人の全職員が高台の消防庁舎に避難する。すでに災害備蓄品を消防庁舎に移すなど対策を始めているが、担当者は「災害時に必要な窓口業務も消防庁舎で行えるよう準備を急ぎたい」と話した。
茨城県大洗町は地震発生から約7時間後に役場が2メートル浸水するとされた。津波に備え、沿岸に高さ8メートルの防潮堤を建設中だが、防災担当者は「絶対に大丈夫とは言い切れず、万が一を考えて対策をとりたい」。東日本大震災後、防災行政無線などの災害設備を2階以上に移動させたといい「庁舎が浸水しても、防災機能だけは維持し住民の命を守りたい」と力を込めた。
青森市内では県庁と市役所がいずれも浸水するとされた。市は50センチかさ上げした土地に建設した市役所の新庁舎の利用を1月に始めたばかり。今回の想定では1.1メートルの高さまで浸水するとされ、市担当者は「どのように対応すべきか、これから検討していきたい」と話した。